糖尿病は今や、国民病といえるほどポピュラーな生活習慣病のひとつです。特に日本人にとって遺伝体質的にかかりやすい病気ともいわれ、現代の高カロリー食や運動不足も加わって、患者数は年々増加傾向にあります。
今年5月22日から3日間にわたり、糖尿病の治療や研究などに携わる全国の医師や研究者、栄養士など約7、500人が参加して、富山で「第46回日本糖尿病学会年次学術集会」が開催され、シンポジウムやセミナー、一般講演などが行われました。
元気で働くためには健康であることが第一。同学術集会の会長を務められた富山医科薬科大学の小林正教授に糖尿病についてお話を伺いました。
私たちもこれを機会に、糖尿病について知るとともに、自分の健康管理を見直してみましょう。
―糖尿病への関心は高いのでしょうか?
高脂血症や高血圧、肥満に注意
糖尿病は私たちに身近な病気で富山県内でも増加傾向にあります。会社の健康診断などで「糖尿病」まではいかなくても、「血糖値が高い」とか肥満による「高脂血症」「高血圧」という言葉をよくきくと思いますが、こういった人たちは糖尿病予備軍と言っていいと思います。
―糖尿病とはどのような病気ですか?
インスリンの働きが原因
私たちは食事を摂ることによつて、血液中のブドウ糖が増加します(血糖値が上昇します)。このブドウ糖は、インスリン(膵臓から出るホルモン)の作用によつて血液から細胞の中に取り込まれ、その結果として、血液中の血糖値が正常に戻ります(下がります)。ところが、運動不足や肥満などが原因でこのインスリンの作用が悪くなって、血糖値が下がりにくくなる病気が中年以降に発症する糖尿病です。
―数値の目安はあるのですか?
食後の随時血糖値が判定の基準
通常、正常な人の血糖値は、食後(2時間くらい)で140mg/dl未満、空腹時で110mg/dl未満です。食後血糖値が200mg/dl以上、空腹時血糖値が126mg/dl以上の人が糖尿病であると判定されます。その中間域が境界型といわれます。糖尿病を初期の段階で発見するには、空腹時よりも食後の随時血糖値を調べてみることをおすすめします(表1参照)。また過去2ヵ月間の血糖値の平均を示すヘモグロビンA1cの値も参考にしてください(表2参照)。
また糖尿病の合併症についても、食後血糖値の高い人の方が、合併症が進みやすいという報告もあります。
―糖尿病で「合併症」という言葉をよく耳にしますが…
放置すると怖い合併症
糖尿病の自覚症状はほとんどありません。喉が渇いたり、多尿になったり、全身の倦怠感などといった症状がでる場合もありますが、痛みを伴う症状はない場合が多いのです。怖いのは「糖尿病合併症」です。
高血糖の状態が続くと、血管が損傷を受けやすく、いろいろな臓器に影響を与えます。その結果、病状が進んでくると、糖尿病性の「網膜症」「腎症」「神経障害」「動脈硬化」などの合併症を引き起こします。特に、網膜症は失明につながり、腎症は人工透析をしなくてはならない体になる可能性もあります。また、神経障害では、足などの神経が侵され、ひどい場合には切断に至ることもある恐ろしい病気です(図1参照)。
―糖尿病と言われてしまったらどうしたらいいのでしょうか?
まずは標準体重に
食事管理と運動です。これも糖尿病の進み具合によりますが、健診などで初めて「血糖やヘモグロビンA1cの数値が少し高いですよ」と言われたような人は、先ず適正な体重の保持が大切です。適正な体重は標準体重(IBW:Ideal Body Weight)といい〔身長(m)×身長(m)×22=標準体重(kg)〕で計算された数値(標準体重)に近づけるようにします。肥満度を示す指数にBMI(Body Mass Index、体格指数)があります。これは〔体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))=BMI〕で計算します。標準体重を計算する際に使ったBMI「22」とは統計上最も病気になる確率が低いといわれる時の数値で、ちなみにBMI「25」以上は肥満とされています(本誌4頁参照)。
食事管理によるカロリー制限
また食事管理によるカロリー制限ですが、標準体重1kgに対して身体を動かす程度によって決まる身体活動量の数字を掛けて算出します。普通の事務職であれば標準体重に身体活動量、約27キロカロリー(標準的身体活動量)を掛けた数字が1日の平均摂取カロリーと考えてください。例えば、標準体重が60kgの人であれば60(IBW)×27=1620キロカロリーとなります。但し、カロリー制限は肥満の度合や職業によって異なり、力仕事が多い方やスポーツ選手では身体活動量は30〜35キロカロリーと大きくなります。80キロカロリー(6枚切り食パン半切れ分)を1単位として表す場合もあります。この場合1620キロカロリーなら約20単位が1日のカロリー摂取単位となります。
適度な運動−散歩がベスト
運動については散歩(ウォーキング)が基本になります。1日1万歩を目標に、最低20〜30分歩くようにしましょう。但し、高血圧や心臓病で治療中の方は、担当医師と相談しながら行ってください。
これらのことを基に標準体重に近づけていくことが大切です。
―糖尿病を予防する方法はありますか?
毎日の運動と定期健診
基本的に糖尿病の改善方法と同じで、食事管理と運動です。例えば、
(1)3階程度であればエレベーターを使わない
(2)通勤(帰宅)時、ひとつ前のバス停で降りて歩く
(3)遠い駐車場を借りる
(4)運動の仲間をつくる(運動教室に通う)
いずれにしても、毎日の運動を何らかの形で習慣づけることが大切です。また、何よりも、会社などで実施している定期健診(健康診断)を必ず受診することです。早期発見、早期治療です!
―今回の富山での学会には多くの関係者が参加されたそうですね
アフターコンベンションで街も賑わう
富山での開催は2年前に決まったのですが、市民公開講座も含めてこんなにたくさんの人が参加するとは正直思いませんでした。アフターコンベンションで、富山の街も大変賑わったようです。このような学会を富山でたくさん開催すれば、経済効果も大きいと思います。そのために、いろんな団体が協力し合える態勢づくりが必要だと思います。
お忙しいところ、ありがとうございました。
小林 正教授プロフィール 昭和42年3月大阪大学医学部卒業。米国留学の後、滋賀医科大学病棟医長を経て、平成4年2月富山医科薬科大学第一内科教授に就任。同大学附属病院院長・副学長などを歴任。 日本糖尿病学会理事、日本内科学会・日本内分泌学会・日本肥満学会の各評議員を務める。 |
糖尿病予防には「1に食事」「2に運動」ということがよくわかりましたね。ではさっそく糖尿病を寄せつけない元気なカラダづくりを実践しましょう! …そして、休養を十分に取ってストレスをためないこともお忘れなく!
※糖尿病傷病者数:国民生活基礎調査をもとに、糖尿病により通院治療を継続している者又は入院している者の数を合わせた数を推計したものをいう。
■糖尿病傷病者数・通院者数の推移(富山県)<資料:厚生労働省国民生活基礎調査>
■糖尿病「死亡者数」の推移(富山県)<資料:保健統計年報第52号富山県厚生部>
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●あなたの「標準体重」と「BMI値」を求めてみよう!
標準体重とBMI値は、次の計算式で求めることができるよ。 |
肥満 | 標準 | やせ | 理想 | |
BMI値 | 25.0以上 | 18.5〜24.9 | 18.4以下 | 22 |
例)身長が160cm、体重が70kgの場合
70÷(1.6×1.6)=27.34(BMI値)
●あなたの1日の「標準摂取カロリー」はいくらかな?
自分に適した1日の標準摂取カロリーは、標準体重に身体活動量(IBW値)を掛けることで求めることができるよ。 |
IBW | 職 種 |
20〜25 | かなり厳しいカロリー制限が必要な人 |
25〜30 | 一般事務職 |
30〜35 | 力仕事が多い人 |
35以上 | スポーツ選手 |
標準摂取カロリー(kcal)= 標準体重(kg)× IBW値
例)標準体重が55kgで、一般事務職の人の場合
1日の標準摂取カロリー 55×27(標準IBW値)=1485kcal