「商工とやま」H16年5月号

 特集  デザインの力で富山ブランドを創出!
     〜新しい価値創造を目指す富山のモノづくり〜

 大量生産・大量消費の時代はもう過去のもの。今、モノづくりには時代のニーズにあった新しい手法が求められています。その一つにデザインの付加価値があります。優れた技術力や人的資産をうまく運用し、ヒット商品を生み出す手法としてデザインの力は有効です。今回は富山のモノづくりをデザインの視点で捉え、「富山ブランド」の創出をバックアップする専門機関や、新商品の開発に取り組む県内企業の活動をレポートしました。


◆富山は技術と素材の集積地


■優れたハードを運用するソフトが必要

 高度な工業技術や伝統的な職人技術に支えられた富山県は、全国的にも名高い「技術と素材の集積地」となっています。しかし現在、県内の製造業は長引く不況や価格競争によるデフレスパイラル、市場のモノ余り現象などによって全般的に低迷を続けています。

 これまで全国の地場メーカーの多くは大手メーカーの下請けやOEM(相手先商標製品)で製造をしてきました。県内のメーカーも然り、大手のニーズに確実に応えることで発展してきたメーカーが大多数といえるでしょう。「作れば売れた時代」はそれで良かったのですが、産業構造が成熟しきった今は、従来型の画一生産システムからフレキシブルな多品種少量生産システムへの転換や、問屋制度に頼らない流通システムの開拓など、次のステップを模索していかなければならない時代にきています。

 しかしながら下請けに専念してきたメーカーの多くは、これまで市場や消費者を見る機会が少なかったこともあり、モノを作る資産はあってもそれをうまく運用する術がない、どう生かしていいのか見出せないという状態です。


■デザインによるブランド力の創出

 熾烈な価格競争や下請けの立場から脱却し、独自のモノづくりを展開していくには「他にないものを作って高く売る」新しい手法が必要。その具体的な方法論の一つがデザインによる付加価値の創出です。

 例えばフランスやイタリアのブランド品には伝統的な職人技術に独創的なデザインを施した靴やバッグ、洋服が多く、消費者に「高くても手に入れたい」という所有欲を掻き立てています。デザインは価格に支配されないブランド力を構築することができるからです。

 高度な技術や伝統に裏づけられた富山のモノづくりも、こうしたデザインによる付加価値で活性化させ、富山ブランドを創出していくことが必要といえるでしょう。



◆富山ブランドの創出をめざして


■県総合デザインセンターが支援

 こうしたデザイン開発・商品開発を支援する県の総合機関として富山県総合デザインセンターがあります。同センターは平成11年7月の開設以来、県内企業のニーズや今後の市場動向を見据えた商品開発を行っています。

 この商品開発には大きく分けて二つのルートがあります。一つは同デザインセンターが県内企業と共同でデザイン開発を行ったり、社内デザイナーのいない企業にデザイナーを紹介したり、企業とデザイナーの間に入って開発をコーディネートしたり、サポートしたりと、状況に応じて色々な方法で対応しています。


■世界へ発信できる商品開発に取り組む

 もう一つは同デザインセンターが毎年実施している「プロダクトデザインコンペ」や「ユニバーサルデザインコンテスト」を通じた商品開発。これは市場ニーズに応じたテーマに対して全国から優れたデザイン提案を募り、可能性のある作品の商品化を県内企業にもちかけるものです。商品化に至るまでのモックアップの製作や技術指導、流通経路の開拓なども同デザインセンターでバックアップしています。

 こうした商品開発は同デザインセンターと県内企業12社(会員登録制)で組織された「商品開発研究会」が中心となって行っています。商品開発研究会ではデザイナーやバイヤー、モデラーなどを招いた講演会や先進地視察、意見交換会などの活動を通して市場動向を探り、富山から全国、世界へ発信できる商品開発に取り組んでおり、これまで7点ほどが商品化されています。なお、商品開発研究会にはどの企業でも加入できます。


■海外在住デザイナーとの新商品開発

 富山市水橋にあるプラスチック用品メーカー(株)リッチェルでは、ミラノ在住のプロダクトデザイナー・蓮池槇郎氏を起用し、富山県総合デザインセンターのサポートを得て、この春、新しいテーブルウェアを開発しました。

 リッチェルはキッチン用品や収納用品のメーカーとして全国的に知られており、その販売先は現在、ホームセンターなどの量販店が中心ですが、今回開発したテーブルウェアは高度なプラスチック成形技術とデザイン性を兼ね備えた商品。高級感を前面に打ち出し、セレクトショップや生活雑貨店で販売するハイエンド商品です。

 「ホームセンター向けの商品は価格と機能が優先されるので、徹底したコスト削減で製造してきましたが、今回、開発したのは価格よりも高級感を優先した“価値観の高い商品 。それにはヨーロッパで活躍するデザイナーの力が必要でした。このプロジェクトではデザインをテーマに開発したことで、今までの流れを変え、新しい考え方を社内に浸透させることができました」(リッチェル蓮池浩二社長)。

 現在、同社では6月の発売に向けて最終検討の段階に入っており、発売後は従来の商品で成し得なかった新しい需要を喚起していくということです。


■富山プロダクツに13点選定

 同デザインセンターでは、県内で企画・製造された工業製品の中で性能や品質、デザイン性に優れたものを「富山プロダクツ」として選定し、製品の普及と販路拡大、デザイン改良などを支援する制度も設け、平成14年度から実施しています。(申請は随時受け付けています。詳しくは同デザインセンターへお問合せください)

 平成15年度は13点が選定されました。その一つが富山市水落にあるドア・建具メーカー、(株)ティーアンドティー・タカマツタテグが開発した「オレットドアシリーズ」。ドアの回転軸ポールに内蔵されたオートヒンジと特殊な歯車を使用し、どちら側から押しても開けることができる折れ戸ドアです。開閉スペースが小さく戸袋が要らないため省スペースが実現。小さな力で開閉でき、車椅子の利用者や両手に荷物を抱えている人でも難なく開けることができます。斬新なアイディアを形にした技術力と、高齢者や障害者に限らず、どんな人にも使いやすいユニバーサルデザインが評価されました。


■県の助成を受けて商品化

 同社の「オレットドアシリーズ」は、浜松の金具メーカーとの共同開発で4年前からスタート。歯車の金型や試作品の製造には膨大な資金がかかったため、県の「創造的事業活動促進に関する研究開発事業計画」の認定を受け、助成金を生かしながら昨年、商品化。富山県立中央病院や富山市民病院をはじめ県内外の福祉施設などに1000セット以上を納入し、来年開港する中部国際空港にも200セット以上採用されました。また先月は大手自動ドアメーカー「ナブコ」とのOEM契約も締結。今後ますますの受注増が期待されています。

 「引き戸とドア両方のメリットを生かし、ドアに対する心のストレスを解消した商品です。今後は公共施設だけでなく、ホテルや観光施設、マンションにも導入するなど街づくりにも生かし、高齢者の自立を支援していきたいと思っています」((株)ティーアンドティー・タカマツタテグ高松俊郎社長)


◆メイド・イン・富山のモノづくりを目指して


■富山市もバックアップ

 商品開発やデザイン開発の支援機関としては富山市商工労働部が事務局となった「富山市デザイン協議会」でも様々な活動を行っています。

 この協議会は、富山市のデザイン振興や新しい調査・研究を目的に平成13年1月、発足。富山アートディレクターズクラブや富山広告協会、富山写真家協会、富山コピーライターズクラブなどの代表で組織されており、毎年「富山デザインフェア」といった展示発表会を開催しています。活動はグラフィックデザインやパッケージデザイン、ディスプレイデザインなどの商業デザインの振興が中心となっていますが、これらは商品の見せ方、売り方を含めたPR手法として必要不可欠なもの。同協議会では、こうした商業デザインに関する相談にも応じています。


■身近な相談窓口も設置

 富山商工会議所でも、商品開発や技術支援に関する相談窓口を設けています。当所ビル1階にある中小企業支援部内の「産・官・学連携相談室」では、産官学連携による新技術や新製品開発を希望する企業へのアドバイスを行い、関係機関への橋渡しをお手伝いしています。

 毎月2回、専門のアドバイザーが相談を受け付けています。気軽に相談していただきたいと思います。


■高品質なモノづくりで市場を開拓

 量の時代が終わって質の時代を迎えた今、モノづくりに求められているのは価格や機能に左右されない価値です。富山商工会議所では平成14年1月から「富山市価値創造プロジェクト」をスタートさせ、地域の価値資源の創出や情報発信などに取り組んでいますが、モノづくりにおいても富山の特性を生かした商品開発の推進、さらには富山ブランドの創出を呼びかけています。

 富山県は長年、蓄積してきた技術や優れた人材に恵まれた産業立県です。こうした高品質なモノづくりをさらに高める手法として、デザインの付加価値を今一度、認識することは重要です。消費者の心に響くデザイン、手に入れたくなるデザインによって、今後、価格競争や海外製品を凌駕する「富山ブランド」が一つでも多く誕生していくことを期待したいと思います。


■富山プロダクツ認証マーク

 富山プロダクツに選定された商品には、「富山プロダクツ認証マーク」を貼付し、富山ブランドとして展示会や見本市などでのPRを支援しています。マークのデザインはグラフィックデザイナーの彼谷雅光(富山市)さん。可能性を秘めた商品を原石に例え、その中から優れたものを選び出す過程を「富」という漢字の中に原石を配置することで表現しています。
※平成15年度の富山プロダクツ選定商品は5月5日まで富山県産業高度化センター(高岡市オフィスパーク5)の展示室で展示しています。



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