「商工とやま」H16年8・9月号
特集 社会貢献活動の新しい担い手! “NPO(特定非営利活動)法人”
「NPO法(特定非営利活動促進法)」が平成15年5月に改正・施行され、1年以上が経過しました。
活動の種類の拡大や設立認証手続きの簡素化により、活動範囲が拡大され、県内でも数多くのNPO法人が誕生しています。
しかし一方では「NPO法人とは何か?」「ボランティア団体とはどう違うのか?」といった疑問をよく聞きます。
そこで今回はNPO法人の概要や県内にある団体の活動状況、そして活動をサポートする行政の取り組みなどをレポートします。
○阪神淡路大震災、重油流出事故が契機に
福祉や国際協力、まちづくりなど様々な分野において、ボランティア活動をはじめとした民間の非営利団体による
社会貢献活動が活発化し、その重要性が認識されてきました。特に平成7年に発生した阪神淡路大震災、
平成9年に発生したロシア船による日本海重油流出事故を契機に、ボランティア活動など市民が自発的に行う社会貢献活動が
注目を集めるようになりました。
しかしこのような団体の多くは、法人格を持たない任意団体。そのため銀行で口座を開設したり、事務所を借りたり、
不動産の登記をするなどの法律行為を行う場合、団体名ではできないといった不都合が生じていました。
こうした不都合を解消し、活動の発展・促進、公益の増進を図ることを目的に平成10年12月、
民間の非営利団体が簡単な手続きで法人格を取得することができる「特定非営利活動促進法(NPO法)」が施行されました。
○自主的な情報公開、活動が基本
NPOとは「Non Profit Organaiz ation」の略。本来は公益法人や任意団体を含む幅広い概念ですが、一般的には営利を目的とせず、
社会貢献を目的として組織された団体として捉えられており、行政と民間営利企業に次ぐ第三の団体として、住民のニーズに応え、
自己実現を生かしていくことができるシステムと言えます。
こうした活動をバックアップするNPO法は、「活動に関する情報をできるだけ公開することによって市民の信頼を得て、
市民によって育てられるべきである」という考え方であることが大きな特徴。ですから法人としての信用は、
法人格を得た団体の活動実績や情報公開などによって、自らが築いていくことになります。
○様々なメリットがあるNPO法人
NPO法人格を取得すると様々なメリットがあります。
(1)法律行為の主体として法人名で契約ができるようになり、口座開設や不動産登記、専従スタッフの雇用などがスムーズになり、
社会的な信用も高まります。
(2)個人名では難しい行政とのやりとりが可能になり、直接、業務委託を受けられるようになります。
(3)寄付金や公的補助金が得やすくなり、資金計画が立てやすくなります。
(4)様々な情報が収集でき、個人では成し得ない活動が実現できます。
○取得するには申請・審査が必要
任意で活動している団体がNPO法人となるには、取得手続きが必要です。手続きは「富山県生活環境部の男女参画・
ボランティア課」が窓口となっています。
○今年中には県内で100団体を突破
NPO法が施行された平成10年以来、法人格の認証を受けた団体はこれまでに全国で15,000件以上。富山県内でも毎年、
申請・認証数が増えており、今年6月末現在で93団体を数えています。
活動内容は、高齢者や障害者を対象とした福祉団体、観光開発や駅前開発などをテーマとしたまちづくり推進団体、
スポーツ振興を目的とした団体、自然保護を推進する団体、国際交流を目的に外国語講習や翻訳、通訳を行う団体などがあります。
ユニークなものには災害救助犬の訓練や派遣を行う「災害救助犬協会富山」、
断酒を志す人のサポートを行う「富山県断酒連合会」などもあります。また、大山町の粟巣野スキー場は、
以前は町営でしたが平成14年8月にNPO法人「あわすの」を設立。
地元をはじめ全国から募集したボランティアスタッフによる運営に切り替え、経営難を乗り越えています。
○富山県は3分の1強が福祉関連事業
県内のNPO法人の特徴としては福祉介護関連の活動を目的としたNPO法人が多いことがあげられます。
認証93団体のうち38団体が高齢者・知的障害者を対象とした介護サービス、デイサービス、
グループホームなどの事業団体で占められています。
こうした介護福祉関連のNPO法人が多い理由としては、NPO認証第一号であるデイサービス「このゆびとーまれ」
を立ち上げた惣万佳代子さんの影響が大きいようです。
惣万さんは平成5年7月、20年間勤務した富山赤十字病院を退職し、看護師仲間3人で民営のデイケアハウス
「このゆびとーまれ」を開業しました。看護師時代、家族の事情でやむなく老人病院に入るお年寄りを大勢見て、
「行き場のないお年寄りの力になりたい」という思いでスタートしたそうです。
○富山型デイサービスの発案者
このデイケアハウスは障害の有無、年齢など利用者の区分けをせず、一緒に過ごすことが最大の特徴。
赤ちゃんからお年寄りまで年齢の枠を越えた交流は、お年寄りには痴呆防止につながり、
また赤ちゃんには人生の先輩から深い愛情が得られるというメリットがあり、真のノーマライゼーションを実現しています。
この方式はやがて「富山型」と呼ばれ、他の福祉施設へ普及。県内の民間福祉団体が続々とNPO法人化し、
事業をスタートさせたのです。そしてこの波及効果は全国各地まで広まりました。
福祉の世界に新しい風を吹き込んだ惣万さんの功績は各界で高く評価され、今年6月、内閣府が新設した「女性のチャレンジ大賞」
を受賞されました。
○初心を忘れなければ継続していける
「このゆびとーまれ」がNPO法人格を得たのは平成11年。その目的は、開業から5年が経って社会的な責任もあり、
組織としてしっかりと継続させていきたい、また平成12年施行の「介護保険制度」の指定業者になりたいということでした。
「法人化したことで介護保険指定業者になれ、経営的に安定したことで、
職員の給料や福利厚生も民間の中小企業並みに充実させることができました。継続していくうちには数々の問題や困難が起こり、
苦労もたくさんあります。でも何故NPOを立ち上げたのか、その初心を忘れなければやっていけると思います」と惣万さん。
惣万さんは今年5月、富山市茶屋町に宿泊のできる新施設を開設。今後もサービスの充実を図っていきたい、ということです。
○手作りロボットで教育支援
ベンチャービジネスを志していた人がNPO法人を立ち上げたというケースもあります。
NPO法人「子どもモノづくり教育支援事業団」の代表理事、福井幸博さんはサラリーマンの傍ら、
子どもたちにロボット作りの楽しさを提供し、子どもの健全育成や社会教育、将来の技術発展を推進する教育支援事業を
行っています。
福井さんは5年前、富山大学経済学部大学院の社会人コースでベンチャービジネスを学び、
その過程で技術を核にした新事業に可能性を抱くようになりました。その後、
芝浦工業大学の移動ロボットシステム研究室・富山大学経済学部のスタッフと共同で、
小学生を対象としたロボットセミナーを開催したところ、反響が大きかったため、事業として立ち上げることを決意。
助成団体からの助成金を獲得し、ロボットセミナーを教育委員会からの委託業務として継続開催していくため、
平成13年2月、NPO法人化しました。
○人や情報が集まり、価値創造につながる
現在は県内の小学5〜6年生を対象にした「少年少女ロボットセミナー」の開催を中心に活動。
教育委員会からの委託業務として年に4〜5回、自分たちの主催で年に10回ほどのセミナーをこなすほか、
毎年夏には「世界子どもモノづくりロボット大会」を開催。今年は8月27〜29日、太閤山ランド会場で開催する予定で、今、
準備に追われる忙しい日々を過ごしているそうです。
「セミナーではロボット工作キットなど、小学生1人あたり2万円前後の経費がかかりますが、
NPOとして補助金を受けていますので、1人3千〜6千円の負担で済んでいます。NPOは社会貢献活動を目的として設立するものですが、
活動上の諸問題を解決する道具のようなものといえるでしょう。職種の違うスタッフが集まることで異業種交流にもなり、
新しい発想が生まれやすいですね」と福井さん。今後も活動を拡大し「富山=ロボット立県」
にしていきたいと考えているそうです。
○NPOとの協働ガイドラインを策定
NPO法人の社会貢献活動が年々活発化し、また一方でNPO法人になりたいと考えている団体も増えている近年の状況をふまえ、
県生活環境部男女参画・ボランティア課ではこの春、NPOと行政が互いの利点や特性を活かし、
パートナーシップを組んでサービスを提供していくことを目的に「富山県ボランティア・NPO協働ガイドライン」を策定。
具体的な取り組みをスタートさせています。
県がNPOと協働する意義としては(1)多様化する県民ニーズへの対応、(2)県政への県民参画の促進、
(3)県民サービスの向上と行政のスリム化、(4)NPO活動の活性化などがあります。
○パイロット事業を推進
今年度の取り組みとしては、県とNPOとの協働パイロット事業を実施。県からは、「バス利用促進のための基礎調査事業」
というテーマを提案しました。一方、県内のNPO法人を対象に県と協同したい事業の企画案を募集しました。
「6月に応募を締め切ったところ、幅広い分野のNPO法人からから8件の応募がありました。
これから県の担当課と意見調整し合意が成立すれば、協働事業を行っていくことになります」
(県生活環境部男女参画・ボランティア課主幹 青木治雄さん)。
○NPO化を望む人たちに情報提供
県民の中でNPO法人化を希望する団体に対しては、県の職員が出向き「仕事談義」と題した説明会を実施。
法人化するまでのノウハウを説明したりしています。また法人化の申請についても現行の4ヶ月という審査期間を短縮し、
スムーズに認証が受けられるよう、システムを改善していくということです。
「NPO法が施行され、県内でも様々な分野で活動している人たちの芽が育ってきました。
そういう人たちのネットワークや情報をさらに活かすため、行政が一緒になって動いていきたいと思っています。
また県民に対してはNPOに対する理解、認識を深めてもらう努力をしていきたいと思います」(同・青木治雄さん)
より快適な街づくりや公共サービスの新たな担い手として期待されるNPO法人。
今後は行政のサポートがよりスピーディで柔軟なものになり、ますます活発化していきそうです。
●NPO法人に関するお問合せ
富山県生活環境部 男女参画・ボランティア課 076-444-9012
ホームページ
◎法人格を取得するには…?
NPO法人格を取得するには、目的に関する要件、活動内容に関する要件、
組織に関する要件などに該当する団体でなければなりません。
活動内容に関しては以下の17分野に該当することを要件としています。
1 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
2 社会教育の推進を図る活動
3 まちづくりの推進を図る活動
4 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
5 環境の保全を図る活動
6 災害救援活動
7 地域安全活動
8 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
9 国際協力の活動
10 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
11 子どもの健全育成を図る活動
12 情報化社会の発展を図る活動
13 科学技術の振興を図る活動
14 経済活動の活性化を図る活動
15 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
16 消費者の保護を図る活動
17 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
※平成15年の改正・施行では12〜16が追加されました。
◎法人格取得のための手続き
(1)所轄庁(富山県)に「富山県特定非営利活動促進法施行条例」等で定めてある設立認証申請書に定款、
役員名簿等の書類を添付して提出します。所轄庁は、団体から申請があった場合に、その旨等を公告するとともに、
定款など提出された書類の一部を2か月間公衆の縦覧の供します。
(2)所轄庁は、申請があってから4か月以内に、認証又は不認証の決定を行います。
(3)法人は、設立の認証後、2週間以内にその主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって成立します。
※平成15年の改正・施行では、「設立者名簿」など5つの書類が省略・統合されました。
◎NPO法人設立の個別相談について
富山商工会議所の富山南中小企業支援センターは、NPO法人のコミュニティビジネスに関する事業計画の策定方法をはじめ、
国民生活金融公庫や銀行からの借り入れなど資金の調達方法のほか、経営責任などについて、個別に相談や設立支援・
助言を行っています。
●個別相談のお問い合わせ
当所・富山南中小企業支援センター 076-423-1111
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