「商工とやま」H17年1月号
特集
食に歴史あり、人に技あり。
◆お正月は「食の伝承人」が守り伝える郷土料理で健康増進!
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富山は海、山、川、そして豊かな平野など、変化に富んだ自然に生み出された様々な食材に恵まれ、彩り豊かな食文化が育まれています。いま食の安全性や、食生活による健康維持が見直されているなか、地域の伝統的な郷土料理のおいしさや栄養価を再認識し、それを作る知恵や技を後世に伝えていくことが大切になっています。
今回の特集では、富山の郷土料理と、郷土料理を守る「食の伝承人」をご紹介。お正月は地元の郷土料理を食べながら体の中から健康になりましょう。
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■郷土の食文化を見直す「食祭とやま」
近年、消費者ニーズの多様化や物流システムの発達、輸入食材の増加などに伴い、私たちの食生活は大きく変化してきました。また、地元で生産された食材を地元で消費する「地産地消(地場生産・地場消費の略)」の取り組みが注目されるなど、「食」の安全性に対する関心もこれまでにない高まりをみせています。
このようななか、地域の食材を見直し、地域の歴史文化や生活風習が生み出した郷土料理を再認識しようと平成10年10月農林水産省が提唱する巡回イベント「第8回全国食文化交流プラザ」が富山市で開催されました。県ではこの成果をふまえ、このイベントを県レベルで開催していこうという考えのもと、翌平成11年より「食祭とやま」を開催。平成11年は福野町で開催。以来12年は魚津市、13年は富山市、14年は高岡市、15年は黒部市、そして今年は砺波市と毎年、会場を移動しながら開催しています。
■食の伝承人の認定制度を創設
食祭とやまでは、開催地域の食文化を紹介するパネル展示や、地元農業関係者や学識者などによる「とやま食文化フォーラム」、特産品の展示販売、料理体験教室など多彩なイベントを開催。様々な視点から郷土の食文化を紹介しています。
このイベントの一環として行ってきたのが「食の伝承人」の認定です。「食祭とやま実行委員会」の事務局を担当している富山県食料政策課では、各地域で郷土料理の伝承活動を行っている人を「食の伝承人」として認定し、認定された人に富山の食文化や郷土料理の伝承・PR活動をしてもらうという制度を設けました。
■県内各広域圏から伝承人を認定
食の伝承人の認定はまず、地元の農業や漁業などに関わり、郷土料理の製造やPR、伝承活動を行っている個人で「食の伝承人」としてふさわしい人を各市町村が推薦。その推薦に対し、食文化に詳しい学識経験者や地元の農業組合、漁業協同組合、料理学校などの代表などで組織された選定委員が選び、正式に認定します。
認定は平成11年度、福野町で開催された「食祭とやま」からスタート。その後毎年、開催地区で認定し、平成14年度までに62名の農業関係者や主婦の方が認定されました。
■主な活動は伝承活動と情報発信
食の伝承人の活動として、県食料政策課では大きく分けて2つの支援を行っています。
1つは料理講習会や伝承会への食の伝承人派遣事業。地元はもちろん、県内各地の団体やグループ、県外も対象に紹介しています。2つめは郷土料理の紹介誌の発行。その土地に伝わる郷土料理の材料、作り方などを印刷物にまとめて残し、PR活動や若い世代への伝承活動に生かします。また、毎年秋に開催する食の総合イベント「食祭とやま」で郷土料理の情報発信を行っています。
■小・中・高校での出張講座も
若い世代への伝承活動としては、学校の教育現場への「食の伝承人派遣事業」も行っています。これは小学校のゆとり学習の授業や、中学校・高校の体験実習の時間を活用して実施しているもの。県食料政策課が仲介窓口となって、県内の小中学校に派遣しています。今年度は6件ほどの主張講座がありました。このほか、県が仲介せず、学校や団体が直接、食の伝承人に申し込むケースも多いので、実際はもっと多くの出張講座が開かれているようです。
■仲間と一緒に郷土料理の工房を運営
富山市中川原在住の食の伝承人、小俣としえさんは「赤まま」と「かぶらごき」の伝承人。赤ままとは小豆ともち米の赤飯、かぶらごきはかぶを茹で、酢醤油と大根おろしで和えたお惣菜です。
「中川原は大根やかぶの産地で、私が嫁いできた頃は近所に漬物小屋があり、野菜を収穫後、近所の男衆が小屋に集まってみんなで漬物を作っていたものです」と小俣さん。
漬物小屋はやがてなくなりましたが、小俣さんはそんな郷土料理の風習を守ろうと農協婦人部に所属し、農業祭で郷土料理を振る舞ったり、加工食品を製造したりしてきました。
そんななか、5年ほど前から加工食品の真空パック化の開発に携わり、本格的な製造販売を考えていたところ、平成12年、友人の横山美智子さんが自宅を改造して「食彩あざみ工房」を開設。以来、この工房をベースにして郷土料理の製造販売や講習会を始めました。工房で作ったものは富山市中教院前の朝市や、昨年春、中央通りに開店した「街なかサロン樹の子」で販売しています。
■朝市、即売会での生の声が励みに
山本節子さんは、富山市水橋在住の食の伝承人。地元でとれた大根や里芋、大豆、栗、銀杏をたっぷり煮込んだ「のっぺい汁」が自慢です。
山本さんは地元農家出身の仲間5〜6人で野菜や花、郷土料理の販売を行っています。木曜は中教院前の朝市、金曜は駅前CiCの夕市、土曜は「なのはな農協」の直売、日曜は水橋ふるさと会館の直売に出かけています。月曜から水曜はその仕込み。大忙しの毎日です。
「農家で米や野菜を作りながらの製造販売ですので、朝から晩まで本当に忙しいのですが、消費者の方々と直接顔をあわせることで反応が聞けますし、次はこんなものがほしいという声も…。励みになりますよ」と山本さん。
■高校生にしろえび料理を伝授
しろえび料理の伝承人、森岡公世さんは岩瀬在住。漁協婦人部長として長年、自治体のイベントや郷土料理の伝承に携わってきた経験から食の伝承人に認定されました。平成8年には岩瀬地区の伝統料理を紹介する本「浜の味いわせ」を共同出版。多くの人々にしろえび料理の歴史や調理法を教えています。
「この前は氷見の有磯高校で出張授業をしてきました。しろえびの殻の剥き方、下ごしらえの仕方、掻き揚げにするときの注意点などを生徒さんに教えました。みなさん初めてで、楽しんでもらえました。しろえびは富山湾だけでとれる食材。新鮮なしろえびの独特な甘さ、おいしさを若い人にもっと理解してもらい、自分でも料理するようになってもらいたいですね」と森岡さん。
郷土料理のおいしさを伝え、後世に絶やさないようにすることは自分の務めだと認識している森岡さん。今後もできる限り、様々な場所に出向き、料理講座や伝承活動を続けていきたいそうです。
■郷土料理を自宅の食卓に
今は、スーパーやコンビニエンスストアには簡単に調理できる加工食品や、その場ですぐに食べられるファーストフードが氾濫し、手間をかけずにそれなりにおいしいものが食べられる時代です。しかし、そうした加工食品には季節の旬や素材本来のおいしさが感じられないものが多く、栄養価の面でも優等生とは言い難いものもあります。
「料理は手間をかけた分だけおいしくなるものです。逆に手間を抜き始めたらきりがない…。今の若い女性は忙しいので料理に時間をかけられる方が少ないのでしょうが、毎日は無理でも、たまにはゆっくり時間をかけて富山の郷土料理を作って味わってもらいたいですね」(小俣としえさん)。
季節の旬の素材を使い、栄養のバランスも抜群の富山の郷土料理。このお正月は、地元伝承の郷土料理を囲んで家族みんなで「富山の食」について語り合ってみてはいかがでしょうか。
食の伝承人
派遣、出張講習などの依頼は富山県農林水産部食料政策課まで。
TEL076-444-3271 FAX076-444-4410
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