「商工とやま」H17年4月号

特集 企業のニーズ、大学のシーズ、行政のサポートが新産業を切り拓く!

富山の新しい活力を創る産学官連携


 国際的な企業間競争や技術革新が進展するなか、付加価値の高い商品開発や新産業・新技術の創出を促進する「産学官連携」がますます重要となってきています。そこで今回の特集は、富山における産学官連携をレポート。大学や企業、行政組織が取り組んでいる産学官連携の現状や今後の展望、そして当商工会議所の産学官連携事業についてご紹介します。

◆ 地域貢献が求められる地方大学

●法人化によって主体性が求められる大学

 産学官連携を推進するうえで、研究開発の主要機関として大きな役割を担っているのが大学です。工業分野では技術開発や素材研究、商業分野では経営戦略や市場動向の研究など様々な取り組みがあります。

 富山大学や富山県立大学では、これまでも地元企業との共同研究や商品開発などを推進してきましたが、富山大学は昨年春に大学法人化、今年秋には富山医科薬科大学、および高岡短期大学との再編・統合があり、富山県立大学も昨年秋から法人化検討が始まるなど大きな転換期を迎えており、これによって従来以上の主体的活動や地域貢献が求められるようになりました。


●富山大学の地域共同研究センターを強化

 富山大学では昭和62年、全国に先駆けて「地域共同研究センター」を設置。地元企業を中心とする産業界との連携推進を目的に経営者研究者交流会や企業訪問、技術相談、共同研究など様々な事業を展開してきましたが、昨年春の法人化に伴い、さらに産学連携を強化することを目的に組織変更を行いました。

 学内には新たに産学官連携推進本部を設け、大学と企業の連携をサポートする事務局として産業連携課も新設。センター長以下、専任教員2名、科学技術コーディネータ2名、客員教授11名をおくなど、スタッフも充実させ、情報交換の円滑化を図る体制を整えました。


●「サテライト技術相談オフィス」などの開催

 事業は「技術振興支援」「産学官交流」「人材育成」を3本柱とし、企業ニーズと大学シーズの一致を見出す新規事業を展開しています。同センターではこれまでも企業との出会いの場を提供してきましたが、必ずしも企業のニーズを把握できない傾向がありました。そこで、大学側が積極的に企業に出向いて企業の課題や要望を掘り起こし、直接対応していく「リエゾン活動」を中心とした“攻め”の事業展開に乗り出すことにしたのです。

 その一つが「サテライト技術相談オフィス」の開催です。これはまず、開催する地域にある企業に事前調査票を送付し、その回答に基づいて専任教員が訪問して企業の問題点や要望を収集。その後、サテライト技術相談オフィスを開催して面談し、テーマに応じた課題解決策や共同研究を提案し、実践に結びつけていくというものです。

 このほかにも年6回、少人数単位の討論会「イブニング技術交流サロン」を開催しており、企業ニーズの実態を把握する手法として役立っています。


●地域に根ざした共同研究を推進

 「大学は教育・研究の場ですが、研究成果が産業界で活用されてこそ、その使命が果たされます。秋には3大学が統合しますので、理工学や医薬、産業デザインや情報処理などそれぞれの研究分野を融合し、富山の恵まれた産業集積を生かした共同研究を進めながら、地元に評価される大学を目指していきたいと思っています」(富山大学地域共同研究センター 松木賢司センター長)。

 富山県は材料・加工分野やバイオ研究分野の産業集積が大きな特徴となっています。現在は、こうした特徴を生かし、バイオ技術と微細加工技術を融合させたバイオセンサーの共同研究をはじめ、栽培漁業を推進するプロジェクト「とやまマリンバイオテクノロジー研究協議会」が発足するなど、富山らしい産学官連携も動き始めています。


◆ 新しい共同研究を生み出すための仕掛けづくり

●産と学を結ぶコーディネータ

 富山市高田、情報ビルにある財団法人富山県新世紀産業機構は、産学官連携をはじめ、中小企業の技術開発、経営課題の解決相談、人材育成、IT化などに対してサポートを行っている総合支援機関です。

 近年、大学や研究機関における研究開発は、専門分野の領域を越えて広範囲にわたっているのが特徴。医薬・バイオ・エレクトロニクスなど各専門分野を融合させ、新しい応用研究へと発展させていくことが重要なカギとなっています。そのために必要なのが幅広い研究分野の知識や情報をもったコーディネータの存在。新世紀産業機構では様々な研究機関や企業の情報を収集し、新しい研究へと結びつけるコーディネータ役として様々な事業を展開しています。

 毎年11月には大学が研究テーマを発表し、企業との出会いの場を提供する「とやま産学官交流会」や、年数回のペースで経営者、技術者が交流や見学会を行う「とやま技術交流クラブ」を開催。このほか富山県工業技術センターのスタッフと県内企業の研究者がサークル活動のようにフランクな関係で研究・交流を進める「若い研究者を育てる会」などの活動もあります。


●大型プロジェクトもサポート

 こうした支援によって現在、県内では国のバックアップによる大型プロジェクトも稼動しています。

 文部科学省は平成14年度から、地域において国際的な競争力をもった産業集積をめざす「知的クラスター創成事業」を推進。これを受け、富山県はバイオテクノロジーによる新産業創出をめざす「とやま医薬バイオクラスター事業」を展開しています。

 この事業は、富山医科薬科大学や富山県立大学が推進している医薬・バイオ技術と、富山大学、富山県工業技術センター、県内企業などがもつ機械・電子技術との融合を図り、大学や研究機関、企業が一体となって共同研究を進めるというもの。これまでに富山大学、富山医科薬科大学、県工業技術センターと(株)リッチェルが開発した医療用の「細胞チップ」など、確かな実績も生み出されています。


●企業と研究者が出会う

 一方、経済産業省でも平成14年度より大学や研究機関、企業が一体となって人的ネットワークを広げ、地域特性を生かした産業集積をめざす「産業クラスター計画」を推進。富山では北陸3県で「北陸ものづくり創生プロジェクト」を発足させ、新素材や高度精密加工などをテーマとした共同研究を行っています。

 このプロジェクトの中でナノテクノロジーの開発を担っているのが、「北陸マイクロナノプロセス研究会」。北陸3県15の企業と17の大学・研究機関が参加した大規模な産学官連携です。県内では富山大学、富山県工業技術センター、立山科学グループ、(株)スギノマシン、(株)不二越などが参加し、ナノテクノロジーを駆使した高度精密加工や材料開発、計測装置の開発などを行っており、昨年は経済産業省の助成金を得て、産学官のコンソーシアム(共同事業体)を発足。実用化に向けた開発プロジェクトもスタートさせています。

 「結局は人と人のつながりです。企業の研究者が誰か一人でもいいから、何でも話し合える教授と知り合うことができれば、そこから新芽が吹き出す。それこそデータベースにも載っていない小さな情報が大きな出会いに結びつき、大型プロジェクトに発展することもありますので、我々としては常に仕掛けづくりをしていくことが大事だと思っています」(富山県新世紀産業機構・産学官連携推進センター 尾間忠則部長)。

 新世紀産業機構では今年度、新たにコーディネータを増員し、活動をさらに強化していく予定だそうです。


◆ 連携と人材をキーワードに産学連携講座を実施

●身近な相談窓口を設置

 では最後に、富山商工会議所における産学官連携の取り組みをご紹介しましょう。

 当所では、ビル1階にある中小企業支援部内に「産・官・学連携相談室」を設置し、会員企業、特に中小企業を中心として新技術・新製品の開発を希望する企業に対し、アドバイスを行い、大学や研究機関へ橋渡しするお手伝いをしています。

 毎月2回の相談日には、専門のアドバイザーが待機し、昨年は29件の相談を受けました。また、休眠特許の活用をはじめとして特許情報の検索方法についても相談を受けています。お気軽に相談していただきたいと思います。


●産学官連携の促進に向けて

 中小企業を対象とした産学官連携は、当所が運営する委員会活動の大きなテーマにもなっています。当所議員によるテーマ別調査研究機関として10の委員会を設けており、その1つの「創業・経営革新支援委員会」では、「産学官連携」の展開に向けて取り組んでいます。


●人材育成で連携

 今年度の取り組みとしては、「連携」「人材育成」「地域や企業の活性化」をキーワードに、富山情報ビジネス専門学校(浦山学園)と連携して、同専門学校国際観光学科の1年生を対象に、「もっと知ろう! 富山の価値」と題した連携講座を開講しました。当所が、宇奈月グランドホテル、北前船回船問屋森家、名鉄トヤマホテル、JTBなどの観光関連企業などの責任者の方々に講師を依頼し、その職場に学生たちが出向いて、観光の現場を直接学ぶというものです。また、当所としても、富山の観光の現状を知ってもらい、関連産業に人材を供給することが、富山の活性化や産業の発展につながる、との判断もあります。参加した学生たちは、それぞれの講師から、これまで知らなかった富山の誇るべき観光資源について教わり、体験したようです。これも産学の連携の1つの実践といえるでしょう。


●連携により魅力ある地域づくりを

 今年度、中小企業庁が国の取り組みとして掲げたテーマは「新連携」です。様々な企業が得意分野を持ち寄って連携し、行政支援を受けながら新しい産業の形を創り上げていくというものであり、当所では今後も時代のニーズや社会のニーズに即応した「新連携」に取り組みながら、富山を活性化し、元気で魅力ある富山の創造に取り組んでいきたいと考えます。


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