「都市」は生きています。「街」は呼吸をしています。そこに集い、暮らす人々の鼓動や息づかいはそのまま「都市」や「街」の活気となり、魅力ある表情をかたち作っています。
ところが近年では、全国の多くの都市において「都市の顔」ともいうべき中心市街地(=まちなか)の空洞化が進んでおり、冨山市も例外ではありません。
モータリゼーションの進展や高い持ち家志向を背景に、郊外にマイホームを求める若い世代も増え、その結果、中心市街地(まちなか)では人口減少と高齢化が進んでいます。
このままでは、「富山市の顔」と呼べるような場所が消えてしまい、魅力のない街になってしまうのではないか、という不安も訴えられています。
富山市では、これからの時代のニーズに対応した地域コミュニティの中心として、人が住み、育ち、学び、働き、交流する場として中心市街地(まちなか)を再生するために、今年7月よりまちなか居住推進事業を展開しています。
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■ まちなか居住推進の必要性
中心市街地(まちなか)の居住人口が減り、郊外での居住が増加する、いわゆる都市の空洞化が進むとどのような影響が考えられるでしょうか。
■ 都市施設の整備等が市の財政を圧迫
人口密度の違いによる行政サービスに 係る異動費用のモデル▼
郊外に住む人々が増えますので、新たに道路や公園、下水道などを整備しなければなりません。また、そのことにより、冬季の除雪や道路、公園、上下水道などの都市施設の維持や更新のための費用が増加します。
また、今後需要が増加すると思われる訪問介護サービスも、高齢者の人口密度が低い郊外ではカバーする範囲が広くなるため、1人のホームヘルパーの移動距離が長くなり、また燃料費(ガソリン代)もそれだけ多く掛かり、移動効率を低下させることにつながります。ごみ回収サービスの面でも同様です。(図1参照)
このように市街地が広く薄く拡散することは、道路等の都市施設の整備や維持管理、ごみ収集、介護サービス等の確保等に係る費用の増加につながり、地方財政を取り巻く環境が厳しくなる中で、これまでどおりのサービス水準を確保することが難しくなるものと予想されます。
■ クルマ社会が引き起こす問題
さらに、郊外での人口増加は、都心部との間の通勤や通学のための自動車交通を増加させ、渋滞を引き起こすほか、ガソリンの消費を増やし、結果的には地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出量を増大させることになります(図2参照)。また、薄く拡がった市街地での生活には車が不可欠であり、車の運転ができない、または不安を持つ高齢者等にとって暮らしにくい状況になっていきます。
■ 空き店舗や空き地が増加
そのほか、中心市街地の空洞化は、購買力の低下から食料品店などの最寄店の成立を困難にさせるだけではなく、現在はまだ優位にある広域的な商業機能も次第に衰退させ、中心商店街は空き店舗、空き地や駐車場が増えていきます。子どもの減少は、小学校のほか、将来的には中学校も統合になる可能性もあり、中心市街地(まちなか)は寂しい、また安全・安心面でも懸念される状況になります。
■ 歴史的・文化的な魅力が失われる
このように、中心市街地(まちなか)では、人口と商業等の都市機能の2つの空洞化が進行しており、北陸新幹線の開業を前にして富山市の「顔」が失われ、先人から受け継いできた歴史的・文化的な環境など「富山らしさ」を継承できなくなりつつあります。
これでは、県都・富山市の魅力は失われてしまいます。こうした不便さがさらに人口を減少させ、都市の魅力を損うという悪循環を引き起こすことが考えられます。
■ コンパクトシティを目指す
このため、富山市の都市づくりにおいては、これ以上の市街地の拡散傾向に歯止めをかけ、中心市街地(まちなか)や旧町村の中心部など都市の核となる地区への人口回帰を図り、市民生活の諸機能や都市機能が集合した「コンパクトなまちづくり」を目指すことが重要な課題となっています。
■ 基本的な考え方
「コンパクトなまち」とは、ただ単に人口や都市機能を高密度に一極集中させるものではありません。基本となるまちづくりの考え方を「コンパクトなまちづくり研究会」の報告書(平成16年3月)は概略次のように整理しています。
――立山連峰の山々と美しい田園環境に包まれた活力ある都市づくり
日本海、富山平野、立山・北アルプスの山々からなる田園環境は、富山市の魅力の一つです。また、農地や林地、河川は、健全な水循環の形成やヒートアイランドの抑制、大気浄化などの環境調節機能をもっています。コンパクトなまちづくりにあたっては、このような農地や林地、河川などの水・緑資源を守り、活かすことによって、環境負荷の小さなまちづくりを進めるとともに、市街地では高齢社会を支え、生活・交流・文化活動等の中心となる魅力的な市街地環境の形成を図ります。
――都市機能の複合的かつ凝集的展開による重奏・緻密な都市活動空間づくり
市街地の拡散と都市機能の郊外化により都市活動は広域化・分散化する傾向がみられ、都市のもつ活力創出、文化創造などの機能が薄れつつあります。就業、買い物、文化交流、レクリエーションなどの機能を複合的かつ凝集的に展開することで、様々な市民活動の展開の場をコンパクトに形成・再構築し、富山に暮らすことに充実感や魅力を感じることができる空間づくりを目指します。このような空間づくりにあたっては、都心にあらゆる都市機能を一極集中させるのではなく、旧町村中心部等においても、地区の状況に応じた機能の展開を図り、地域の拠点づくりを目指します。
――身近な公共交通がある場所での身近な生活・サービスの確保
自動車に依存したライフスタイルが浸透し、今後は、超高齢社会の到来による後期高齢者の急増や、女性、高齢者の就労率の上昇が予測されることから、徒歩や公共交通でも移動できる交通環境を形成するとともに、交通結節性の高い場所において、身近な生活・サービスの誘導を図ることにより、子供や高齢者、子育て中の親など、誰もが安心かつ快適に生活できる環境の確保を目指します。これは、自動車に依存することなく、近くで買い物等ができるなど、環境に優しいライフスタイルの実践であり、また、公共交通の維持に不可欠な沿線市街地の人口を、将来にわたって一定程度維持することにつながります。
――多様なライフスタイルの実現を支える選択性のある生活環境の創出
これまでのような郊外一戸建てを中心とした画一的な住まい方だけではなく、都心居住、職住近接、共働き世帯が働きやすい住環境や、また田園地域では農業を機軸とした自然志向の生活や田舎ぐらし、自然的環境を活かしたレクリエーション・農村体験など、多様なライフスタイルの実現を支える生活環境を提供します。このことは、富山市民の定住意識を高めるだけではなく、U・J・Iターン志向のある退職者層や若者層など、地域外から居住者を引き込む魅力にもつながります。
――市民・企業・行政協働で取り組むコンパクトなまちづくり
限られた財源を効率的かつ効果的に活用していくためには、コンパクトなまちづくりを図る上で重要なところに集中的に投資していく、いわば「公共投資する範囲」もコンパクトにする必要があります。コンパクトシティは、市民・企業・行政の協働による取り組みが基本になっています。
■ 富山市のまちなか居住推進事業
富山市は、中心市街地(まちなか)の現在の定住人口密度が55人/haであるのを、平成26年度までに、全国平均の65人/ha程度までに増やすため、10年間で7千人、約3千戸の住宅供給を目標に、共同住宅の建設や住宅取得の促進を積極的に行う「まちなか居住推進事業」による助成制度をスタートさせました。これには大きく分けて、(1)市民向け助成 (2)事業者向け助成 (3)まちなか居住の普及活動、の3つがあります。
主な補助についてその概要を説明します(※この事業の補助対象となる区域は下図のとおりです。また、「まちなか住宅・居住環境指針」に適合する必要があります。詳しくは、富山市都市計画課(TEL 076-443-2106)または富山市ホームページでご確認ください)。
■市民向け一戸につき50万円を補助
◆一戸建て住宅取得補助
一定水準以上の一戸建て住宅(延床面積が72u以上)を建設または購入される方に、一戸につき、金融機関からの借入額の3%(50万円が限度)が補助されます。
◆共同住宅(分譲)取得補助
一定水準以上の分譲型共同住宅(住戸専用面積が55u以上)を購入される方に、一戸につき、金融機関からの借入額の3%(50万円が限度)が補助されます。
◆まちなか住宅家賃助成
まちなか以外からまちなかの賃貸住宅(住戸専用面積が37u以上・学生の場合は25u以上)へ転居される世帯に家賃が助成されます。助成月額は、家賃から住宅手当を控除した額(ただし、1万円が限度)で、3年間までとなっています。
■事業者向け一戸につき100万円を補助
◆まちなか共同住宅建設促進事業
「まちなか住宅・環境指針」に適合する共同住宅(4戸以上・住戸専用面積が55u以上・単身型は37u以上)を建設する方に、一戸につき、100万円(5,000万円が限度)が補助されます。
◆まちなか優良賃貸住宅補助事業
国の制度である高齢者向け優良賃貸住宅や特定優良賃貸住宅で、「まちなか住宅・環境指針」に適合するものについて建設費の上乗せ補助がされます。補助額は、1戸につき、50万円です。
◆まちなか住宅転用支援事業
遊休化した業務や商業ビルなどを改修して、まちなか住宅・環境指針に適合する共同住宅に転用される方に1戸につき100万円(5000万円が限度)が補助されます。
◆以上の事業およびこのほかの助成制度についての詳細は富山市都市整備部都市計画課にお問い合わせください。
まちなか居住推進事業について、富山市都市整備部の根塚俊彦部長にお話を伺いました。
――まちなか居住推進事業を始められた背景は何ですか。
◆根塚◆ これまでクルマ社会が進展したほか、市民のライフスタイルの多様化など様々な要因で、富山市の市街地は徐々に拡大し、病院や美術館などの公共施設も郊外に立地しました。それはそれで、その時代を反映したもので、悪いことではなかったのですが、結果的には中心市街地(まちなか)が空洞化してきたわけです。これは、富山市だけに限ったことではありません。
しかし、わが国の人口が減少する時代、少子高齢化、環境問題や、都市間競争などの諸課題に対応できるでしょうか。
――富山の場合は、クルマに依存する割合が非常に高い、と聞いていますが。
◆根塚◆ そうです。いろいろな施設が郊外に立地すれば、当然に車を利用しなければ行けません。車に依存した都市では、交通弱者と言われるお年寄りや車を運転出来ない市民の方々は非常に住みにくい街になってしまいますし、環境やエネルギー問題へも悪い影響を与えるでしょう。
だからこそ、中心市街地(まちなか)へ居住人口の回帰を図り、都市機能や生活の諸機能が集積したコンパクトなまちづくり、利便性の高いまちづくり、いわば「歩いて暮らせる街づくり」が重要で、そういう都市(街)を目指してこの「まちなか居住推進事業」がスタートしたわけです。
――個人や民間事業者に補助金を出すのは問題だ、との意見もあったとか。
◆根塚◆ 行政が、一般の市民や企業等に補助金を出す、言い換えれば、個人の資産形成に補助金を出すと捉えられては困ります。そうではなく、富山市の顔である中心市街地の活性化という公共的な目的に協力してもらう、という観点から補助するのです。マンションを建設する事業者の方に補助することで、まちなかで建設されるマンションの価格が安くなれば、まちなかに居住する人が増えるだろうということを期待しています。
まちなかでの生活をお考えの方は、この機会に是非、この制度を利用いただき、まちなかライフを楽しんでいただきたいものです。
――公共交通の充実も不可欠ですね。
◆根塚◆住宅の供給とあわせて、商業・文化・教育・医療・福祉など様々な都市機能の充実が必要です。そしてそれらを連結する公共交通機関の充実や利便化も大切なことです。来春、現在のJR富山港線に替わって「富山ライトレール」が開業することになっていますが、森市長が仰っている様に、将来的には、現在の市電との連結、さらには新路線によるループ化・延伸等、他の交通機関との連携なども検討し、まちなか居住の一層の充実を支援していきたいと思っています。
――「真ん中で暮らそう」が合言葉になっていけばいいですね。有難うございました。
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