「商工とやま」平成17年12月号
特集 新しい会社法制として「会社法」が誕生!
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■新会社法の特徴 新会社法では、現代語化と併せて、合名会社、合資会社、株式会社について規定された商法第2編,有限会社法,および株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(商法特例法)等を1つの法典に再編成されました。 特に中小企業に関する部分として、有限会社制度の廃止や株式会社設立の要件の拡大、事業承継に活用できる株式制度の拡充、会計参与制度の導入、最低資本金の撤廃、合同会社の新設など数多くあります。 ■株式会社と有限会社が一本化 これまで、有限会社は株式会社と比べ信用力が劣るといったことから小規模企業であっても株式会社の形態を取ることが多く、実態として有限会社とは差がない株式会社が増加したことなどの状況を踏まえ、新会社法では有限会社制度を廃止して株式会社制度に一本化します(図1)。従って、新会社法施行後は有限会社が設立できないことになります。 ■有限会社がなくなる? 既存の有限会社(旧有限会社)は,新会社法上、株式会社として存続することになりますが、従前の有限会社とほぼ同様の規律の適用を受ける会社として存続することになります。そのために定款の変更や登記申請等の特別の手続きはいりませんが、旧有限会社の社員、経営者、債権者等に混乱が起きないように特則により引き続き実質が維持され、商号使用も引き続き「有限会社」の文字を用いること認めるなど、所要の経過措置を設けています。これを「特例有限会社」といいます。特例有限会社では、「取締役任期の無制限」、「計算書類の公告は不要」といった旧有限会社の規定もそのまま適用されます。 ■有限会社から株式会社への移行 一方、新会社法施行後に特例有限会社が株式会社に移行するには、定款の変更や「株式会社」を入れた商号の変更とともに、登記手続として、特例有限会社については解散登記を、商号変更後の株式会社については設立登記が必要となります。 ■類似商号規制の廃止 また、商号に関しては、登記済みの商号と同一市区町村内において同じ営業のための商号を登記できないとする、従来の類似商号規制は廃止されます。これによって、類似商号の調査等が不要となり会社の設立登記が簡素化されスピーディにできるようになります。 ただし、類似商号に関する使用差止め・損害賠償請求等の争訟はこれまでどおり不正競争防止法などによって行います。 ■最低資本金の制度がなくなり、1円でも会社設立ができる! 株式会社の設立に際して出資すべき額について,下限額(現行法では株式会社につき1、000万円,有限会社につき300万円)の制限を撤廃します。つまり、1円の出資金でも会社が設立できるようになります。これにより起業家やベンチャー企業が株式会社を設立しやすくなります。 しかし、一方では会社設立が容易になり、濫用されないかと不安になりますが、そこは、これまでと同様に法人格の否認や役員の第三者責任の規定等により適切な解決が図られます。 ■既存の「確認会社」(1円会社)はどうなるの? では、最低資本金規制特例制度によって最低資本金規制を免除された「確認会社」は、5年以内に最低資本金(株式会社1、000万円、有限会社300万円)以上の増資を行うことや、毎年経済産業大臣に計算書類を提出することが必要でしたが、新会社法による最低資本金制度の撤廃に伴い本特例制度も廃止され、「確認会社」に課せられていたこれまでの義務がなくなります。 ■株式譲渡制限会社における定款自治の拡大 また、株式譲渡制限会社(その発行する全ての株式についてその譲渡につき当該会社の承認を要する株式会社)では定款自治の範囲が拡大され,取締役会を置かないこともでき、また取締役・監査役の任期を最長10年までとすることができるようになります。 ■事業承継を円滑に行うには? 近年、中小企業の後継者問題が話題になっていますが、相続や合併等により会社にとって好ましくない者に株式が分散することを防ぐにはどうしたらよいかが重要な課題となっています。 新会社法はこのような課題を解決する道を開きました。まず、(1)株式を譲渡制限株式とした場合でも、相続や合併等の事由による株式の移転は制限できませんでしたが、定款で定めることにより会社が相続等で移転した譲渡制限株式について売渡請求を行うことがでるようにしています。また(2)議決権制限株式を発行済株式総数の1/2までしか発行できませんでしたが、株式譲渡制限会社においては、この発行制限を撤廃しています。さらに(3)株式会社では原則として出資額に応じた議決権・配当を行うことになっていましたが、株式譲渡制限会社においては、株主総会の特殊決議により、議決権や配当について株主ごとに異なる取り扱いを定款に定めることができるようにしています。今後、これら(1)から(3)を上手に活用することによって、より円滑な事業承継が可能となり、会社の経営を安定させることができるようになります(活用例について図2を参照ください)。 ■会計参与の導入で決算書の信頼性が向上 これまで、中小企業における会計監査は主に監査役が担当していましたが、監査役には資格要件がないこともあり、名目的な監査役が設置されている会社が多くありました。このため計算書の信頼性の向上等を図るため,任意設置の機関として,会計に関する専門的識見を有する公認会計士(監査法人を含む。)又は税理士(税理士法人を含む。)が,取締役等と共同して計算書類を作成し,当該計算書類を会社とは別に保管・開示する職務等を担うという,会計参与制度が導入されます。 株式会社であれば、定款で会計参与を設置することを定めるだけでよいのです。また、会計参与の導入は会社の任意であり、義務付けられているものではありませんのでご注意ください。 ■会計参与の主な責任 会計参与制度の概要は表1のとおりですが、特に重要と思われる会計参与の責任については、次のとおり、会社や第三者に対して社外取締役と同様の責任を負います。また、会計参与の氏名または名称は登記事項となります。 (1)会社に対する責任 会計参与が会社に損害を与えた場合は、損害賠償等の責任が生じます。この責任は過失(不注意ミス)があった場合の責任で、株主代表訴訟の対象にもなります。 ただし、損害賠償額については、会計参与の善意(知らない状態で)重過失(重大な不注意ミス)がない場合、株主総会の特別決議により、報酬の2年分までに制限することが可能です。また、責任限定契約をしておくこともできます。 (2)第三者に対する責任 会計参与が、職務について悪意(知っている状態)または重過失があったときは、第三者に対して損害賠償責任が生じます。 表1 会計参与制度の概要
■創業しやすい合同会社(日本版LLC)を新設 新会社法では、有限会社と株式会社を統合して株式会社を一本化しますが、さらに合同会社(Limited Liability Company:日本版LLCとも呼ばれる)という社員全員が有限責任で、かつ、所有と経営が一致する形態の会社を新設します。この合同会社は、出資者の全員が有限責任社員であり、内部関係については民法上の組合と同様の規律(原則として、社員全員の一致で定款の変更の決定などが行われるほか、各社員が業務執行権限を有する)が適用されます。これにより創業やジョイントベンチャーなどの活発化を図ることとしています。 また、同じ有限社員で構成される株式会社との違いは、株式会社は株主総会、取締役会等の機関を設けなければならないほか、株主の権利内容も、原則として平等原則が適用され、これらの規律は強行規定とされているのに対し、合同会社では組合と同様に機関設計や社員の権利内容等について強行規定がほとんどなく、広く定款自治に委ねられています。さらに、持分の譲渡に関する規律をみると、株式会社では株式の譲渡自由の原則が採用されているのに対し、合同会社では社員全員の一致が必要とされます。 ■合同会社とLLP制度で創業をバックアップ 「日本版LLC」である合同会社に先立って「LLP制度」(新会社法でなく「有限責任事業組合契約に関する法律」で平成17年8月施行)も新たに導入されていますので、参考までに合同会社や株式会社と比較してご紹介致します。 このLLP(Limited Liability Partnership)は、「有限責任事業組合」といいますが、合同会社とともに創業等をバックアップする制度といえます。 合同会社とLLPとの共通点としては、(1)有限責任性、(2)内部自治原則、などがあげられます。 また、相違点としては、合同会社が会社の一類型であるのに対し、LLPは民法上の組合の特例という位置付けのため、法人格を有さないという点が挙げられます。 なお、LLPは、課税上は事業体に課せられないで出資者に直接課税される構成員課税の適用を受けます。 ■低コストで簡単な設立手続き 合同会社およびLLPによる創業においては、最低資本金規制はなく、定款の認証や「払込金保管証明」も必要ありません。最小限必要なコストとしては、登録免許税(合同会社・LLPともに最低6万円)等があります。 株式会社の設立と比較すると、小額の費用(株式会社の設立には最低24万円程度かかる)、簡便な手続きで創業が行えることになります。 ■合同会社・LLPの活用例 合同会社・LLPの活用例としては次のようなものが考えられます。 (1)高度サービス産業における専門人材の集合体 (例)弁護士・公認会計士・税理士・行政書士などが集まり、経営コンサルタントの共同事業を展開。 (例)プログラマー、デザイナー、セキュリティ、営業専門人材によるソフトウェアの共同開発販売。 (2)ジョイントベンチャー (例)大手機械メーカーと音声の認識・センサー技術を有するベンチャー企業による次世代家庭ロボットの共同開発・製造。 (3)中小企業の連携 (例)技術力と目利き能力を持つ企業を中心に個性的な技術を持つ中小企業が集まり、新製品の開発、大企業への提案型の事業を展開。 (4)産学連携 (例)製薬会社とゲノム解析を専門とする大学教授による新薬の共同開発事業。 以上、中小企業に関して今後、対応・活用できるものや、創業・起業に際して参考となるところを中心にお伝えしましたが、新会社法での主な変更点は表2のとおりです。 表2 「新会社法」での主な変更点
当所では今後、新会社法に関する講習会の開催などを実施していく予定ですので、是非ご参加くださいますようお願いいたします。 |