「商工とやま」H17年8・9月号
特集 水の王国、富山を再発見しよう!
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富山県は標高3000メートル級の山々や急流河川、扇状地といった豊かな自然環境のおかげで蛇口をひねればいつでもおいしい水が飲めるなど全国トップレベルの水質、水量を誇る「水の王国」といわれています。しかし、都会で飲み水のまずさに驚いたり、他県の節水制限のニュースを人ごとのように思ったことはありませんか?富山県は治水対策が進んでいますが、いつ襲ってくるか分らない集中豪雨の備えも怠ってはいけません。 今回の特集は富山の水をクローズアップ。飲料や洗濯、入浴など日常生活で何かと多くの水を使うこの季節に、改めて富山の水の恵みについて考えてみたいと思います。 |
富山市内には北アルプスを水源とする常願寺川と、飛騨山脈を水源とする神通川の2大河川が流れており、富山平野には「川千本」と呼ばれるほど多くの川があります。これらは富山に暮らす人々の飲料水をはじめ、田畑を潤す農業用水、アルミやパルプなどの基幹産業を支える工業用水、さらには河川の要所にあるダムから供給される電力など、多くの恵みを与えてくれています。
また、県内には湧き水や滝、親水スポットも多く、昭和60年に環境庁が実施した「全国名水百選」では、最多の4件が選ばれるなど全国トップレベルの名水県となっています。
まさに「天の恵み」とも言える富山の水ですが、何故これほど豊かなのか、その理由をまずは自然環境から検証してみたいと思います。
富山県の年間降水量は約2,300ミリ。全国平均の約1,800ミリと比べても非常に多く、全国トップレベルの降水地帯となっています。
これは冬期間の降水量が多いためです。冬の降水は平野部では雨でも山では雪に変わります。山岳部に降った雪は天然の貯水池となり春から夏にかけて雪解け水となって平野へ流れ出すため、水温は低いまま。このおかげで真夏でも冷たい飲料水が飲めるというわけです。
県名の通り、山に富んだ富山県。自然度の高い原生林的な植生区域の県土面積に占める割合は30・9%で全国平均の22・8%を大きく上回り、北海道、沖縄に次いで3位。本州では1位です。
この山間地の森林は「緑のダム」となって降った雨を樹木の枝、落葉の堆積層に一時貯留して保水したり、浄化したりしてくれます。また、表土の流出を食い止め、水の濁りを防いでくれます。
県内の代表的な7大河川は、全国の河川と比較すると河床勾配が大きく、海外の著名河川とは比べものにならないほど急流です。
これは水質の面から見ると、急流なので途中で汚染される間がなく、酸素による新陳代謝も活発なため、良い状態のまま下流に達するということになります。県の調査でも県内の河川の水質は、ほとんどがAAまたはAレベル。全国的にも極めて良質であることが報告されています。
水道水の元になる水は、山地に降った雨や雪が地表、地中を流れ下ってきたものです。従ってその水質は大地の地質に大きく左右されます。
富山平野を形成する扇状地は、ろ過作用に優れた花崗岩や変成岩、礫岩が多く、これらに含まれる各種ミネラル成分が流れる水に適度に溶け、うまみを作り出しているのです。
水の成分分析を通して自然環境の仕組みを研究している富山大学理学部・佐竹洋教授も、「山に降った雨は地下を流れ、約20年かかって地上に湧き出し川となります。水はこの間、地下をゆっくり流れながら地中の成分を吸収します。富山県内80ヵ所から地下水を採取し、成分を調査したところ、カルシウムや重炭酸が適度に含まれ、おいしい水を作り出していることが解りました。これも富山独特の地形や地質のおかげだと思います」と、富山の水が極めて良質であることを分析しています。
このように、富山の水質が良いことは、豊かな自然環境に裏づけられていることが解りましたが、続いては「名水」についても考えてみたいと思います。
「名水」という言葉を聞くとすぐに「おいしい水」をイメージする方が多いと思いますが、「名水」の定義は水のおいしさだけではありません。環境庁の「全国名水百選」では、@水質・水量、A住民活動、B規模、C故事来歴、D希少性などを基準に選定。富山県からは、黒部川扇状地湧水群、穴の谷の霊水、立山玉殿の湧水、瓜裂清水の4件が選定されました。これは熊本県と並ぶ全国最多ですが「もし、選定基準をおいしい飲用水に限っていたら、富山県はたくさんあり過ぎて選び切れなかっただろう」と言われたそうです。
富山県ではこの選定を機に翌年、「とやまの名水」(55選)を選定しました。選定の観点は@きれいな水で古くから生活状態、水利用などにおいて水質保全のため社会的配慮が払われているもの、A湧水などである程度の水量をもつ良質なもので、地方公共団体などで保全に力を入れているもの、Bいわゆる名水として故事来歴のあるもの、Cその他、自然性が豊かで希少性、特異性があるなど優良な水環境として後世に残したいもの、となっており、湧水のほか、井戸、河川、滝、湖沼、農業用水なども選ばれています。
名水55選のうち富山市内の湧水、井戸水では「石倉町の延命地蔵の水」「中ノ寺の霊水」など7件が選定されています。
水をテーマとしたライフワークに取り組んでいる嶋量男さん(高岡市水道局)は、富山の名水や温泉を紹介するホームページ「嶋くん(水商売!)」 http://www1.coralnet.or.jp/shima/を作成し、自ら名水スポットを取材しながら全国に情報発信しています。
「富山市には選定された名水のほかにも、山の中にひっそりと湧く水や、地元の生活に密着した湧水などが多く、本当にたくさんの名水に恵まれた地(5ページの新・富山市名水マップを参照ください)。名水めぐりをすれば、同時にその土地の歴史や文化、生活習慣にも触れることができますよ」(嶋さん)。
現在の旧富山市内の地名からも分るように泉町、清水町、大泉町、堀川小泉町、今泉などはかって地下水が自噴していたことを示しています。
では、おいしい水の要件はどんなものでしょうか?水の味は個人的な好みにも左右されますが、富山市水道局流杉浄水場では水道水の水質を科学的に分析し、飲料水としておいしく飲める要件を提示しています。
「水質項目には蒸発残留物、硬度、過マンガン酸カリウム、臭気度、残留塩素、水温などの項目がありますが、いずれも富山の水道水は全国的な数値よりもレベルが高く、不純物や有機物が少なく、都会の水のようなカルキ臭もなく、清涼感が感じられる低温。水源に恵まれている富山だからこそ、このようなおいしい水を安定供給することができます」(同流杉浄水場・谷井直照主幹)。
現に富山市水道局では、平成8年から富山の水道水のペットボトルを製造し、イベントで配布したり、販売したりしています。市販のミネラルウォーターと比べても全く遜色のない味わい。富山の水のレベルの高さがうかがえます。
富山県生活環境部環境保全課では、恵まれた水環境や水質を守り、「水の王国とやま」を後世へ引き継いでいくため、昭和62年度からクリーンウオーター計画を実践しています。
この活動は河川や地下水、湖沼などの水質調査、生活系や産業系などの排水対策、水辺や海域などの水域保全、そして環境保全活動の4つの柱で推進しています。
「最近の傾向としては、河川の水質は水質汚濁が深刻だった昭和40年代の10分の1まで浄化され、きれいな状態が保たれています。一方、近年は沿岸海域の水質が若干悪化傾向にあったため、周辺の工場に窒素やリンの削減要請、排水規制を行ったところかなり改善されました」(同環境保全課 坂森重治副主幹)。
昨年からは、海上保安庁と共同で富山湾の環境調査を実施。潮の流れや水質を調査すると共に、海域の水質向上に向けて取り組んでいます。
富山市では、商店街や各種団体が地元の名水を生かした街おこしや商品開発などの取り組みを展開しています。注目しているのは石倉町の延命地蔵の水です。
当所や市、商業関係者などで設立した(株)まちづくりとやまでは、平成15年度に策定した「街なか観光推進事業計画」に基づいて、いたち川周辺の観光化に重点を置き「街なか歩こう会」や「延命地蔵尊の名水の活用・PR」を実施しています。昨年はコミュニティバスの活用促進を願って「のんびりスポット」という観光マップを作成。そのルートに延命地蔵尊を組み込むなどして観光PRに取り組んでいます。
平成16年3月には、富山市中心商店街の店主を中心とした「延命地蔵尊名水活用実行委員会」が発足。パン屋、菓子店、餅屋、酒造店、コーヒーショップなどを経営する会員が名水を使ったグルメ商品を開発し、それぞれの店頭や「まちなかサロン樹の子」での販売のほか、各種イベントにも出店しています。
「富山の名水と地元の食材を生かしたオリジナル商品ということで、発足以来、その数、種類も増えてきました。現在は和漢薬メーカーとタイアップして“名水+薬膳”のオリジナル商品を開発しています。秋頃には販売の予定。健康志向に乗って広くPRしていきたいですね」(鈴木亭店主・鈴木孝さん)。
富山市商工会議所でも現在、「富山市価値創造プロジェクト」を実施しており、そのテーマの一つに「水恵・水景」を生かした街づくりを掲げています。私たちの資源である水の恵み、水のある風景をまず、私たち市民がその価値を再認識、再発見し、互いに語りあい自信と誇りをもって情報発信していくことが非常に大切です。
私たちはあまりにも恵まれた水環境に慣れ親しんでいるため、その恩恵に甘え、無頓着になっている面もあるかと思われます。しかし、水を生かした街づくりへの活力は、こうした「恵まれた水環境」という価値資源に対する感謝や愛着の念から生まれてくるものだと思います。
まずは改めて富山の水に感謝。みなさんと一緒に身近な水の恵みを実感できる富山の街づくりに取り組んでいきたいと思います。
●石倉町の延命地蔵の水(富山市石倉町) 佐々成政が富山城の東を守るために整備したと言われるいたち川泉橋詰の延命地蔵境内にある。万病に効く霊水とされ、この水を使った商品も多く出回っている。 |
●杉谷の霊水(富山市杉谷) 古沢交差点を医科薬科大学方面、北陸自動車道の高架下手前。立山連峰の伏流水が地下を流れている間に鉱石物質を含み、鉄分の多い湧き水に。病に効くと言い伝えられている。 |
●花山寺の霊水(富山市山田若土) 牛岳のふもとにある山田温泉の奥手、わかつち橋を渡った先にある。花山寺本坊が奥の院として水かけ地蔵を建立。その前からこんこんと霊水が湧いている。 |
●桂の清水(富山市八尾町大玉生) 八尾町中心部から南へ約12キロの大玉生八幡社横。古来からの「桂の根元から水が湧く」という言い伝えの通り、樹齢1000年といわれる桂の大木の根元から湧き出している。 |
●春日の殿様清水(富山市春日) 江戸時代、富山から飛騨へ塩を運ぶ中継要所だったという春日温泉郷の中ほどにある。御蔵番の殿様が好んで飲み、そのお陰で無病息災だったと伝えられている。 |
名水コーヒー 「さんぽーろ かわい」 富山市中央通り1-4-23 TEL 076-424-8810 FAX 076-493-1224 |
名水仕込み三色団子 名水仕込みあやめ団子 「石谷餅店」 富山市中央通り1-5-33 TEL 076-421-2253 FAX 076-421-1834 |
名水ワッフル・金つば 名水栗ようかん・水ようかん 「鈴木亭」 富山市西町6-3 TEL 076-421-4972 FAX 076-425-7193 |
延命水仕込コシヒカリおにぎり 「高田食糧」 富山市上赤江町1-8-13 TEL 076-441-4361 FAX 076-442-3855 |
名水そば万寿・水大福(夏期) 名水いちご大福(12月〜5月中旬) 「清進堂」 富山市平吹町4番1号 TEL 076-424-8430 FAX 076-424-8435 |
甘酒まんじゅう きんつば・どらやき 「竹林堂」 富山市中央通り1-5-2 TEL 076-423-8424 FAX 076-492-3336 |
名水仕込吟醸酒・本醸 (1.8?・720m?・300m?) 「高倉酒店」 富山市中央通り3丁目2-6 TEL 076-421-8094 FAX 076-421-8094 |
栗饅頭 栗どらやき 「松屋本舗」 富山市堤町通り2-1-13 TEL 076-421-2426 FAX 076-421-2462 |
リーフパイ・さくらロール(春期) パート・ドフリュイ 「ミニヨン」 富山市中川原新町78 TEL 076-424-5140 FAX 076-424-5140 |
エンレイクッキー シダ立山・名水きんつば 「新栄堂」 富山市吉岡410 TEL076-429-2525 FAX 076-429-2525 |