「商工とやま」平成19年10月号
特別寄稿 当所北欧産業経済視察団報告
〜市民が安心して暮らせる持続可能な社会づくりを実感〜
当所が派遣した北欧産業経済視察団(団長 八嶋健三当所会頭)は平成19年7月12日から9日間、環境問題への取り組みに熱心なヨーロッパ諸国の中でも特に環境意識の高いデンマーク、ノルウェー、スウェーデンのスカンジナビア3カ国を訪れ、その進んだ福祉システムや環境に配慮した街づくりをはじめ、素晴らしい自然景観や各国独自の歴史・文化などについても学び、7月20日に無事帰国した。
富山商工会議所 中小企業支援部 次長 笹 野 俊 文
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(7/12)
◎スカンジナビア3カ国の玄関口、デンマークに到着
成田から約11時間かけて、デンマークの首都コペンハーゲンのカストラップ空港に現地時間の16時頃到着した。
入国手続きを経て、滞在するインペリアルホテルへ向かう。このホテルは駅前という好立地にあり、5分ほど歩けば、ストロイエという歩行者天国に出ることができる。夕食後、私たちの心はにわかに盛り上がり、ホテル周辺を散策することにした。
当日は、ちょうど夏休み期間であったため、平日にも関わらず、多くの人々で賑わっていた。
コペンハーゲン(7/13)
◎古き良き伝統と流行の最先端が見事に融合
コペンハーゲンは、古くから海運業が盛んな町として発達してきた。もともと船舶用無線通信技術関連の産業が発達していたため、IT産業にも長けたハイテク都市である反面、歴史的な遺産を有する文化都市でもある。
旧市街地には前日も歩いた歩行者天国ストロイエがあり、この通りには王室御用達の老舗から有名ブランドのブティック、デパートなどが軒を連ね、わき道にはアンティークショップやデザインショップなどさまざまな店舗が立ち並んでいる。
視察終了後、ジェトロ・コペンハーゲンセンターを訪問し、現地駐在員の片桐氏からデンマークの経済動向や福祉政策などについてレクチャーを受けた。経済面ではGDP成長率は2005年には3・1%、2006年には3・2%と堅調な成長を続けている。景気が落ち込んだ時、日本と同じように公共事業を前倒ししたり、一部の税金を免除したりすることで経済を活性化させている。また福祉政策面ではデンマークは定年年齢の引き上げ、所得税、法人税の税率の引き下げ、就業促進などを盛り込むことで納税の確保に努めている。
ベルゲン(7/14〜15)
◎中世の面影を留める 世界遺産の街
コペンハーゲンを朝出発、飛行機で1時間20分後、ノルウェー第2の都市にして港湾都市ベルゲンに到着する。
7つの山が湾を挟み、街が細長く形づくられている。三方を山に囲まれ、湾を持つ富山とは似通ったところがあり、親しみを感じた。
次の視察先は、三角屋根の木造家屋が立ち並ぶブリッゲン地区。それらの家屋が中世ノルウェー建築を代表するものとして、ユネスコの世界文化遺産に登録されている地域である。
◎世界一の山岳観光、フィヨルド
ベルゲンは、フィヨルド観光の玄関口でもある。ベルゲンからオスロ行きの特急列車に約2時間乗り、標高800mのミュールダール山岳駅に着く。ここからは、フロム山岳鉄道に乗り換えて1時間弱で、フロムに到着。
フロムからグドバンデン間を、約2時間のフィヨルドクルーズ。ソグネフィヨルドは、フィヨルドノルウェーの中央にあり、全長204km、最深部1,308mの世界最長、最深を誇るフィヨルドだ。静かな水面からそそり立つ断崖が両側から迫り、迫力満点。そのスケールの大きさに、自然の偉大なる力を感じずにはいられない。
オスロ(7/16〜17)
◎汚染地帯を再生した「持続可能な都市プロジェクト」
ベルゲンから、飛行機でノルウェーの首都オスロに移動。
オスロ中央駅から王宮まで続くカール・ヨハンス・ストリートは歩行者天国で、通りの両側にはカフェやレストラン、ショップが軒を連ねている。その歩行者天国は常時歩行者専用道路となっており、自転車専用道路まで整備されている。さらに、市民や旅行者の足として便利な交通機関トラムが活躍していることもあって、自動車がやけに少ない。心なしか、街の空気がきれいに感じられた。
翌17日の午前中に、アーケシュエルヴァ環境公園を視察した。この公園は、オスロ市の中心部を南北に縦断するアーケル川沿いに広がる。
このあたりは、産業革命以来1960年代まで工業地帯として発展してきたが、その代償として自然環境が汚染されてしまった。1971年から、アーケル川を浄化し、再生させようという試みは始められていたが、現在の形で環境公園の整備が始められたのは1986年からである。ブルントラン内閣のシセル・ロンベック環境大臣が、アーケル川流域の環境を整えて市民の憩いの場を造るなどの目的で「持続可能な都市プロジェクト」を発足したのがきっかけである。そうした努力の甲斐あって、現在のアーケル川の水質は、美しく清らかによみがえった。
午後からは、前日に引き続き、オスロ市内を視察。ムンクの主要作品をすべて所蔵するノルウェー最大の国立美術館と、ムンクがオスロ市に寄贈した作品約2万点余りを収蔵するムンク美術館を見学する。両美術館ともに有名な作品が多数展示されているため、団員一行は食い入るようにして作品に見入っていた。
オスロ市内の視察を終え、飛行機でスウェーデンの首都ストックホルムへ移動した。
ストックホルム(7/18〜19)
◎福祉本来のあるべき姿を学ぶ
スウェーデン福祉研究所(SCI)を訪れ、福祉先進国の実情を視察した。
SCIは、スウェーデン政府の支援のもと、スウェーデン障害研究所とスウェーデン大使館商務部が協力して設立した施設であり、スウェーデンの先進的な福祉・介護システムを提供している。研究員からSCIの概要及びスウェーデンにおける福祉状況などの解説を聞いた後、いくつかの質問をした。
特に知りたかったのは、高齢者や障害者の介護システムである。スウェーデンでは、高齢者や障害者もできるだけ自宅で過ごせるようにサポートするという考え方が一般的だ。自宅に手すりを付けたり、段差をなくすなど、暮らしやすくリフォームすることで、今までと同じように生活できるよう工夫されている。誰にとっても適応可能な環境づくりのために尽くすのが、SCIの目的の一つなのである。福祉の本来あるべき姿を見たような思いがしたと同時に、大いに見習うべき点があるように感じた。
ストックホルムは、メーラレン湖に浮かぶ都市。14の島から構成され、周囲には群島が散在している。
ガムラスタンという旧市街は、13世紀半ば、ストックホルムが初めて築かれた場所である。そのため、王宮や大聖堂などの歴史的建造物や、石畳やガス燈の残る狭い路地など、随所に中世の面影が残されている。
その後、ノーベル賞授与時の晩餐会に使う食器類や、受賞者の写真などを展示するノーベル博物館を視察した。
翌日、ストックホルムを13時15分発の飛行機で出発し、コペンハーゲンを経由して帰国の途につく。
◎これからのまちづくりに生かす
今回の視察は、急速に少子高齢化が進展する富山市において、高福祉サービスが享受できるまちや社会システムをどのように作り上げていくかについて大きなヒントを与えてくれた。また、まちづくりの面では、富山市が今年2月に国の第一号認定を受けた中心市街地活性化基本計画に盛り込まれた各種事業にも活用できる事例も多く見聞することができ、これからの「富山のまちづくり」にも生かしていきたいと思う。