「商工とやま」平成19年10月号
特集 未来を創造する若き担い手と共に学び育む「学店」
〜共有県富山を目指して〜
富山ブランドの開発と街の活性化に向けて期待の高まる「学店」が、この夏、富山商工会議所の主催で開催されました。今回は、この事業の企画・運営にあたった富山商工会議所青年部(以下、富山YEG)と、商品企画・販売に知恵をしぼり、一緒に汗を流した高校生の皆さんに話を伺いました。
|
■YEGフェア 「学店2007」開催
学店2007は、富山YEGの特別事業、地域貢献事業として実施されました。次代を担う若者と、学校・行政・企業・商工会議所が互いに手を取り合う、「商学共同」プロジェクトです。呉羽高等学校、中央農業高等学校、富山いずみ高等学校、富山商業高等学校、富山商船高等専門学校、八尾高等学校の6校が参加し、4月から事業はスタートしました。
今回は、富山YEGが投げかけた「富山の特産を使った、食をテーマにした商品開発」という課題のもと、生徒達が地域の隠れた名産を使った商品開発に挑みました。そして、8月4日、5日の2日間にわたって、富山まつり会場の富山城址公園東側広場で販売実習が行なわれました。そして、10月27日には、成果発表会と街づくりセミナーが開催される予定です。
■学店が目指すもの
富山YEGでは、富山から人材を輩出するばかりでなく、学生の県外流出に歯止めを掛け、活気ある富山を構築したいと考えています。そのために、次代を担う高校生達に富山の自然豊かな地域資源や文化の歴史を見つめ直してもらおうと3つの目的を掲げて学店を開催しました。
■学店の3つの目的
(1)富山の豊かな地域資源、歴史や文化を見つめ直し、地域を愛する心を育む
(2)企業や経営者とのコミュニケーションを通じ、企業家精神を育成する
(3)街づくりと人材育成のモデルを提言する
■学店を継続事業に
平成17年度にも、富山YEGが主体となって若手後継者等育成事業YEGフェア2005『学店』を単年度事業として開催しています。参加5校(中央農業高校・富山国際大学・富山商業高校・富山商船高等専門学校・富山大学)がYEG委員会と連携し、富山のオリジナル商品の開発から販売、成果発表までを行いました。
今年度、富山YEGでは、地域貢献事業として今後も継続して行える事業をやりたいと、さまざまな角度から検討し、意見を交換しました。その結果、平成17年に開催したこの学店を再構築し、継続事業として取り組んでいくことになったのです。
前回の内容に加え、経営・販売セミナーなどを実施し、物を売るだけではなく、会社経営の理念など、経営の基本を学ぶ機会が設けられたり、プレゼンテーションセミナーや街づくりセミナーなど、生徒も富山YEGのメンバーも「共に学ぶ」さまざまな機会が設けられました。
■共に学ぶ学店
学店の源哲弘実行委員長(富山YEG会長)は、「最近の子供は、大人といえば、親と学校の先生にしか会っていません。地域で、隣のおじさんやおばさんがいなくなったのです。この学店を通し、いろんな人と関わるなかで、社会というものを学んでいってほしい」と語ります。また、生徒達だけでなく、青年部のメンバーにとっても、とてもいい勉強の機会であることからも、「今後は、例えば1年といった、より長いスパンで準備された商品が出てくることもあると思いますし、もっと多くの高校に参加してほしい」と期待を込めます。
学店を統括する山田昌彦運営委員長(地域貢献事業特別委員長)は、「私たちは経営者の集まりですから、自分の会社の後継者を育てていかなければなりません。学店は若い人たちの考え、アイデアの出し方、発想力の豊かさを肌で感じることができるとてもいい機会」と語ります。
寺本晋司実行委員会副委員長(富山YEG副会長)も、「金さえ儲ければいいという風潮の世の中で、生徒達の純粋さから学ぶことはとても多く、自分たちが忘れかけていたことを思い出させてくれます。困っている学校を助けたり、販売が終了したら、率先して掃除をしていたことなど、非常に勉強になった」とのことです。
■親子のような熱心な指導
4月下旬の説明会の後、すぐに青年部の各委員会のメンバー4〜5人がコーディネーター役として、それぞれの参加校に出向き、企画・開発のアドバイスや企業との橋渡しが始まりました。あるメンバーは月に8回も学校に通い、まるで親子のように親身になって相談に乗り、アドバイスしたそうです。それぞれ工夫を凝らした発想豊かな商品が、青年部メンバーの熱心な指導や企業の協力のもとで生まれました。
各高校では、社長、会計、企画部長などの組織がつくられ、この組織のもとで、原価管理をしたり、目標を立てて商品の販売を行ないました。学校ごとに、より良い商品を生み出そうと、生徒はもちろん青年部メンバー同士も、お互いがいい意味でのライバルとして競い合いました。
参加校から、富山商業高校の皆さんに、この事業で得られた成果や、思いについてお話を伺いました。
■模擬株式会社で企業経営を学ぶ
富山商業高校では、従来から授業の一環として、模擬株式会社「TOMI SHOP」を運営しています。これは、生徒が株主となり、会社設立、企画、仕入れ、販売、経理、広告、株主総会に至るまでの企業経営を体験学習するものです。
学店と同様、社員や社長といった一般企業と同様の役職を決め、県内企業の協力を得て、オリジナルの食品や商品を開発、販売しています。そのほか、21クラス(一学年7クラス)の生徒が県内企業約50社と取引していて、毎年11月に商品を販売、昨年は1500万円の売上があったそうです。
これまでに開発したホタルイカラーメンや空弁は、実際に商品として富山空港やスーパーなどで販売された実績があります。初めての「TOMI SHOP」は平成14年の7月に中央通りサマーフェスタに合わせて出店されました。そして、今回の学店では、それらの経験に青年部メンバーの多才な知識やノウハウをプラスして、さらにパワーアップした商品開発と販売が行われました。
■富山の隠れた名産を商品化
富山商業では約200種類のアイデアのなかから商品を絞り込み、学校の調理室などで自分たちで作りながら試食を重ねました。そして、佐々木千歳堂さん(富山市城北町)の協力のもと、約3ヵ月の間に「いちじくアイス」とスイカを使った「とやまプリン」、「富山の町(マーチ)」(クッキー)などの企画・開発に成功しました。
学店では、このうち「いちじくアイス」が販売され、2日間とも、好評のうちに売り切れの人気商品となりました。
■助け合い、ひとつになれた学店
今回の学店への参加で、これまでの「TOMI SHOP」とは違った思い出深い経験ができたようです。
「自分達にもノウハウはあると思っていましたが、他校の販売の仕方、声の出し方を知ることができました。大沢野のいちじくという、富山の隠れた名産を商品化できたこともよかったですね。そして何よりいい経験となったのは、他校で売れ残った商品を、みんなが協力してお客さんに声を掛けながら売り切ることができたこと。商売は物を売るだけだと思っていましたが、人と人が助け合っていくことが大事だと知りました」と話すのは、TOMI SHOP社長の萩原淳平さん。
暑さもあり、在庫管理や冷凍庫の温度に悪戦苦闘したという、副社長の新元瑠菜さんは、「他校と一緒に参加することができて良かったと思います。最初はライバルだった他校の生徒同志が、最後には団結することができました。本当の意味での「学店」になったと思います。それから、商品の置き方、POPの書き方などは青年部の方から教わり、とても勉強になりました。セミナーを受けて、商品のネーミングなど細かなところから学んだことで、商品への愛着が高まりました」と振り返ります。営業部長の瀬川望さんも、「それぞれの学校が店舗のディスプレーを工夫していて、雰囲気も個性的で勉強になった」と、実学の面白さを実感していました。
一方、生徒達の柔軟な考えに驚き、刺激を受けたと話すのは富山商業を担当したコーディネーターの一人、中心市街地ふれあい委員会の松田宏之副委員長。「いろんな企業があることを生徒さんに知ってもらうことができ、街を元気にするのは、中小企業だということが、学生達にもしっかり伝わったと思います」。
■もっと企業の方と語り合う場を
また、安田教諭も、4月下旬から約3ヵ月という短期間でたくさんの商品開発が実現できたのは、青年部のコーディネーターの熱心な指導や専門的なアドバイスや援助があったからと振り返ります。
「商品には物語がないといけないこと。物語があるからこそ、説得力のある売り方ができることを教えていただきました。「TOMI SHOP」では経験できなかった多くのことを生徒達はこの学店を通して学び、成長したと思います。心のこもった接客や、物を大切にするこころ、商売の上で大切な基本を、地域の経営者の方との会話から学んでいけたことはとても大きな成果ですね。将来、自分で商売を始めようという子供たちが、もっともっと増えてほしい。そのためにも、今回のように、企業の方とゆっくり話しができる場がもっとあるといいですね。」学店がもたらした成果の手応えから、次回の開催に期待が膨らみます。
■5年後には、「学店全国大会」開催を目指して
青年部の山田委員長は、学店で経験したことを活かし、例えば、大企業に勤めて肌に合わなくて辞めてしまった若者も、フリーターではなく、自分で起業する道もあることを思い出してほしいと語ります。「小さくても、自分で考え、好きなものを売っていくことも、立派な生き方なんだということを知ってほしい。やっぱり、街の賑わいや経済を支えるのは、中小企業だと思いますから。」
今後も学店を継続し、5年後の日本商工会議所全国大会富山大会には、ぜひ「学店全国大会」を開催し、熱い富山をアピールしたいと抱負を語る青年部の皆さん。
当所では、価値創造プロジェクトを通して、「顔のある街」「多士才彩」「越中味処」などの価値創造テーマに基づき、様々なプロジェクトの提案と支援を行っています。
富山初の「学店」が、全国ブランドとなり、富山発のユニークな試みとして全国にアピールできるよう、今後も積極的に支援に努めていきます。
■ネーミングの由来
『学店』のネーミングは、富山YEGのオリジナルです。「学生の店・学校の店」であると同時に、この事業を通じて、参加された皆さんが(学生・企業・青年部)共に学ぶ事ができ、新たな気づきの場であってほしいという願いが込められています。