「商工とやま」平成19年8・9月号
特集  観光で富山をもっと元気にしよう。

 少子高齢化により、日本の人口減少も予想されるなか、人の交流を活発にし、地域の経済を潤す「観光」は、地域活性化の重要な産業として期待されています。富山県は豊かな自然環境に恵まれ、優れた観光資源が数多くありますが、ここ数年の観光客の入込数は伸び悩んでいます。来年3月の東海北陸自動車道全線開通を機に、あらたなチャンスが生まれようとしているいま、富山県の観光の現状と未来への可能性について考えてみたいと思います。


特徴ある「おもてなし」で通年観光を

■アルペンルートが観光の中心

 富山県への観光客入込数は平成14年をピークに横ばいないし、減少傾向にあります(表1)。その後、冷夏や自然災害、愛・地球博などの影響を受けたこともあり、入込数は低迷しています。現在の富山県の観光の中心は、やはり立山黒部アルペンルートと黒部峡谷。しかし、いずれも冬期間は休業となるため、アルペンルートだけではない通年観光が大きな課題となっています。


■体験・学習型の観光へ

 富山県を訪れる観光客の40%は団体客で、これは他県に比べても非常に高い割合となっています(表2)。
 いまや観光は団体から個人へと移行しているなかで、新たな対策も必要となっています。団塊の世代が今年から一斉に退職することも踏まえ、単に雄大な自然や観光施設を見て回る観光から、体験・学習型の魅力ある観光を提案していくことが求められています。


■富山の魅力である「食」をもっと広める

 県では、今年2月に創作「越中料理コンテスト」を開催。富山の食材を活用し、あらたに「越中料理」を創作して、全国ブランドとして育てることを目的としています。

 今回は、「食」をはじめとして、さまざまな側面から富山県の新しい観光の魅力づくりに取り組む、富山県商工労働部の金森観光課長にお話を伺いました(役職は、取材した6月1日現在のもの)。


■素材中心から「越中料理」のPRへ

 「これまでは、ブリやカニ、ホタルイカ、シロエビなどの素材中心のPRでした。今後はその素材を使った料理ということに着目していく必要があります。調理師の腕を競うためだけではなく、料理を県内に普及させることがコンテストの目的です。今回出されたレシピを共有して広く県内に普及させ、全国に発信していきたいですね。富山の料理はあれもこれもおいしいというのではインパクトがないので、モデルとなるものを作り、そこから徐々に他の料理も紹介していきたいと考えています」。

 コンテスト直後に東京のエージェントを富山に招待して料理を食べてもらったり、一般の方のモニターツアーも実施して、いずれもとても好評だったことから、県では今後、越中料理のホームページやパンフレットを作成し、マスコミやエージェントに対して、積極的に「越中料理」のPRをすることにしています。


■産業観光の大きな可能性

 県では、産業観光にも注目し、観光の大きな柱として支援を始めています。知識欲旺盛な団塊世代の人たちを対象とした、学習体験型の観光としての産業観光に注目しています。

 「富山県はものづくりの県ですから、産業観光の素材の豊富さは他県には負けません。富山や高岡の商工会議所を中心に熱心にやっておられますが、県としても何ができるかを考え、皆さんと相談しながら産業観光を盛り立てていきたいですね。産業観光の受入れ体制整備のために、説明書やホームページ作成の支援も行う予定です。新しく産業観光に取り組む施設のためにトイレをきれいにしたり、わかりやすいパンフレットの作成などの支援のほか、首都圏からのエージェントを招聘して、各社のパンフの作成経費への支援なども行っていきます。 

 ただ、産業観光といえども、観光客を受け入れる以上は、片手間ではなく、おもてなしのこころで、ものづくりの努力を伝えることが大切だと思います。単に施設を整備するだけでなく、そういった接客サービス面にも留意していきたいと思っています」。

 会社施設を観光客に開放することは富山県の観光の一翼を担うことになり、私達一人ひとりの接客が県全体の印象にもつながります。その点は、ぜひ気をつけたいものです。


■違う切り口で光をあてる

 アルペンルートや、黒部峡谷のトロッコ電車も、自然の良さだけでなく、産業観光の面からのPRも考えられます。電源開発の歴史や世界的に見ても珍しいトロッコなどの乗り物、ハイブリッドバスでのエコツーリズムなど、別の切り口、側面からPRすれば、これまで興味の無かったお客様を掘り起こすことができるのではないか、また、1回来たことのある方にも、2回、3回と来ていただく目的づくりとしても期待できます。


■伝統文化を通年観光で魅せる

 八尾では、おわら風の盆は祭りの期間以外にも、通常は月2回、冬場には毎週、観光会館で風の盆のステージが披露され人気となっていることをご存じですか。ここでは、「こきりこ」なども合わせて上演されることもあります。県ではこれらのステージを通年観光の魅力づくりとして注目しています。

 こきりこは、小中学校の音楽の教科書にも載っていて誰もが親しみを感じる富山の資源。県内各地のお祭りなどと合わせ、もっと内容をふくらませて、定期公演できるものを増やせば、すばらしい観光資源になります。

 また、来年3月には東海北陸自動車道がいよいよ全線開通します。今年度、来年度は、中京圏でのPRを強化する絶好のチャンスと言えます。


■何より大切なのは、おもてなしのこころ

 富山県の観光において「おもてなしのこころ」が一番の課題ではないでしょうか。

 「積極的なPRやいろんな新しい観光の魅力づくりに取り組んだとしても、実際に心のこもったおもてなしでお客様に満足して帰っていただけなければ意味がありません。お客様に、良かった、また来たいと思っていただくことが大切です。ぜひ、おもてなしの心をもって、顧客サービスの向上に心がけていただきたいなと思います」。

 寡黙で、もくもくと働く勤勉実直な県民性が、接客サービスでは逆にマイナスとなってしまうことがあります。明るく「いらっしゃいませ」、「また来て下さいね」といった声掛けや、お客様の立場に立った、ていねいで思いやりのあるおもてなし。とかく、口コミで悪いところは広がりやすいもの。日々の積み重ねと努力が重要といえます。



海外からの観光客への期待

■国際観光の積極的なPRを

 日本全体の人口が少子化によって減少し、やがて団塊の世代も高齢になると、旅行需要の面でも国内だけに目を向けていることはできません。活路を見い出すとすれば、やはり海外からの観光客の誘致が必須です。県では、そのような将来を見越して、国際観光にも注力しています。  「10数年後では遅いのです。国際観光については、今から一生懸命取り組むことで、富山を日本有数の国際観光地にすることも不可能ではないと考えています。現在、海外向けの観光ルートとしては、東京、大阪、京都がゴールデンルートと言われる定番ですが、その次は富山、というくらいに知名度を上げることも、国際観光であれば可能」と金森課長は意気込みを語ります。

■台湾や韓国でも人気の「雪の大谷」

 国は平成14年からスタートしたビジット・ジャパン・キャンペーンを通して、海外からの観光客の誘致に取り組んでいます。県でも国と連携し、平成17年からは台湾で一大キャンペーンを実施してきました。台湾での一番の人気はやはり4月の「雪の大谷」です。それに加え、去年からは秋の新雪が降る時期も売り込んでいます。しかし、夏場やアルペンルートの休業時期にいかに富山を売り込むか課題となっています。

 韓国でも平成17年から、韓国の大手旅行会社であるロッテ観光開発と県がタイアップして、PRに取り組んでいます。韓国には高い山がないこともあり、アルペンルートの雄大な自然や「雪の大谷」、黒部峡谷、温泉などは人気となっています。また、ソウル―富山間には定期便があることや、ロッテ観光開発と県のタイアップによって、県内に宿泊する旅行プランが組まれています。

 一方、台湾の場合は富山に宿泊しない旅行プランも多く、いかに宿泊を増やすかが今後の課題となっています。


■上海、香港からも観光客を

 いまや世界有数の都市となり、発展を続ける上海。県では上海のエージェントへの支援制度を設け、富山県の知名度アップと誘客に取り組んでいます。これまでに、上海の新聞や地下鉄のホームに広告を出したり、上海市内のバスや地下鉄のモニターでも富山県のPRをしています。今年8月頃には、バス停のシェルターの広告スペースを使って富山のPRを行う予定です。

 今年の2月、春節(現地のお正月)の時には、上海から約120人の観光客が富山を訪れました。上海からの観光客は日本でたくさんの買物をするという特徴があり、ツアー料金だけでは計れない、経済効果が見込まれるそうです。

 その他、香港でも富山県は現地の有力旅行会社と協力してPRをしています。香港の観光客も購買力が高いことから、県では観光客の県内での宿泊・消費・経済活動を通して、県内の経済の活性化につなげるため、今後もさまざまな支援、PRを行っていきたいと考えています。



 富山県には、立山・黒部アルペンルート、世界遺産・五箇山の合掌造り集落や国宝・瑞龍寺など、世界に誇れる観光素材がたくさんありますが、今後はその素材を自慢するだけでなく、いかに魅力ある方法でアレンジし、広く伝え、心地の良いおもてなしをするかが重要と言えそうです。

 当所でも産業観光への取り組みなどを通して、富山の新しい価値の創造と地域活性化に取り組んでいます。多くの可能性を秘めた富山の観光を、さまざまな面から支援していきます。



コラム
株式会社JTB中部 富山支店 支店長 櫻田 義一 氏

◆人との交流から、可能性が生まれる

 JTBでは昨年の9月から今年の3月31日にかけて、「日本の旬」キャンペーンを通して北陸三県の全国キャンペーンを実施しました。地域と一緒にお客様を増やすためのスキームを作り上げていく取り組みです。味覚・文化・おもてなしなど、それぞれの地域のオリジナリティを出し、北陸へ呼び込むもので、食事の出し方、おもてなしの仕方、観光施設のメンテナンス、お客様のご案内の仕方など、さまざまな要素が再検討・整備されました。地域の魅力を高め、地域活性化に寄与していくこと。そして、そこでできあがったスキームをキャンペーン後も続け、やがてはキャンペーンに頼らずに、県外客に来県していただけるような仕組みを根付かせる目的があります。

 さらに、人との交流の重要性を櫻田支店長は訴えます。

 「人との触れ合いが観光要素のなかでは非常に大きな魅力です。氷見の網元や地元の元気な女将さんなど、人情や活気があり、人が表に出てくるような宣伝展開がもっとあるといいと思います。県民も観光客に声掛けができるようになってはじめて、富山はいいところだねということになると思います。交流を通じて、人が集まることによって、いろんな可能性が生まれてくるのです。

 また、富山はいいところです。水がいいから米も酒もうまい。でも、うまいだけでは人は来ません。器が整って、雰囲気が整って、それを体感してもらう。思ったよりいいよねとか、おしゃれだねという要素も大事です。期待感と現実感が一致したり、現実感が期待感以上であれば、それは3倍、4倍になってお客様に印象づけられ、それが今度は人の声になります。噂や口コミはすごく大事です。同じ趣味や嗜好をもっている人たちに伝わっていくのですから」。


◆富山の観光における課題

 「富山の観光は、やはりアルペンルートと黒部のトロッコ電車が牽引していますから、ここを活用しない手はありません。よく、通り抜けと言われますが、富山で泊まる理由をつくることも大切です。立山の麓もリゾート地や高原のように整備されないと魅力はありません。宿泊面ではまだまだ未整備だと思いますね」。

 また、能登や石川は富山にとって切り離せない関係にあり、お互いにもっと連携しながら戦略的に展開していくべきだと語る櫻田支店長。

 「東京や中京圏からみたら一緒の方がメリットがあります。石川もいいけど、富山ももっといいよと、そういう展開も必要だと思います。さらに、官民がジョイントしてやることも大切です。旅行産業に従事している人にはチャネル、ルートがあります。行政もそれを後押ししているんですよ、ということを強くに印象づけることが重要なのです」。

 富山県には良い素材がたくさんありますが、意外とそれがお客様に伝わっていないのではないかというところもあります。そういう意味でも、官民一体となる重要性が、今後益々高まってくるのではないでしょうか。


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