「商工とやま」平成20年1月号
新春座談会
 富山を魅せる産業観光 〜ものづくり県 富山の面白さ〜

■出席者
 朝日重剛氏(当所副会頭、とやま産業観光推進協議会会長)
 松本弘行氏(富山市議会観光振興議員連盟会長)
 坂井保樹氏(富山市商工労働部長)
 櫻田義一氏(株式会社JTB中部富山支店長)
■司会
 長尾治明氏(富山国際大学地域学部教授)

 当所は、富山の価値資源に観光面から光を当て、都市の活性化につないでいくための推進母体として「とやま産業観光推進協議会」を平成15年3月に発足させました。

 富山の主要企業と行政の参加のもと、産業観光による歴史的・文化的資源(産業遺物・工場遺構、あるいは現用の産業機械・工場を含む)の再発見やものづくりの心の伝承、人的交流と地域の観光産業の振興を目指して、これまで体験バスツアーや、産業観光パンフレットの発行、フォーラムの開催などに取り組んでいます。

 この度、会津若松で開催された「全国産業観光フォーラム2007」において、平成20年度開催地として富山市が正式決定しました。このフォーラムは、新しい切り口としての「産業観光」の振興を目的に、平成13年の名古屋を皮切りに毎年開催されているものです。その後は浜松、鹿児島、札幌、八戸、北九州、会津若松と続き、富山での開催は8回目となります。当所としても、富山の優れた産業を全国にPRする絶好のチャンスと考えます。

 そこで、本誌では「富山を魅せる産業観光」と題し、新春座談会を11月30日(金)に開催いたしましたので、その概要をご紹介します。

 

富山には何があるのか

【長尾】 とやま産業観光推進協議会は、様々な活動を実施されていますが、富山にはどんなものがあると考えられますか。

【朝日】 抽象的な話になりますが、当協議会の活動は、当所が平成14年から取り組んでいる「富山市価値創造プロジェクト」が一つのバックボーンになっています。ですから、水とか薬、食物、それから富山と言えば立山というように、自然の景観ですね。山、川、海がワンセットになっている、これは他の県には見られない大変素晴らしいものです。それから、富山市価値創造プロジェクトでは「多士才彩」と言っていますが、ユニークな人々。これらのものを中心にして、そこから観光ということへ広がってくると思います。

【松本】 私は日頃、全国を回っておりますと、富山の印象というと、立山であったり、売薬であったり、祭りでは八尾のおわらが全国区だろうと思います。

 先ず富山と言えば、晴れ渡ったときの立山連峰の印象が強く結び付いていますね。今年は観光入込客数が100万人を切ったようですが、立山というのは大きな魅力です。あるいは自然景観の魅力、言うなれば名所旧跡のたぐいですね。

 売薬は、今の若い方に聞きますと知らない人も多いのですが、ご年配の方は大半が知っていますね。売薬さんが富山の産業の基礎になったということでは、やはり全国区的なものだと思います。

 それと、伝統行事の祭りでは、八尾が今は富山市になりましたし、おわらは大いに富山というものを印象付けている。これから更に富山市の魅力として十分力を発揮していけるものだと思います。

 ただ、これだけで満足してはだめなので、立山連峰から流れる水は薬業や製薬に結び付いていますし、何といっても電源開発、電力に結び付いて今日の工業都市・富山市の基礎を築いたということを、これからはもっと強調していかなければいけない。これは他の所に行って強く感じます。

 それと、やはり食ですね。食材の豊かさは、意外にも外へ出てみてはじめて富山は素晴らしい食材の宝庫だなと実感します。

【長尾】 立山連峰という自然の景観が観光に役に立っている部分があるわけですが、そこから流れてくる水が今日の産業基盤を作り出してきているということで、富山は産業観光というものを大きな魅力として、まだまだ発展の可能性が十分あるし、今後も訴求していく必要がありますね。今度はそれを「どう魅せていくか」ということが重要な課題になってきますね。

 

産業が見たいわけではない

【櫻田】 産業観光で期待するのは、観光客が来ることですよね。観光なのだから、とりわけ県外の方に。当社の宿泊券の実績をみると、団体券で宿泊される方と個人券で宿泊される方の比率がどんどん変わってきて、個人券の比率が多くなってきています。ですから、旅行が個人化してきているということの表れだと思います。

 個人化している旅行で来る人たちが、どんな目的で富山に来るのか。産業を見たいわけではないのだと私は思います。旅行者の動向を見ますと、キーワードになっているのはやはり「自然」であったり「食」であったり「癒し」であったり「学ぶ」ということがどうしても中心になってくると思うのです。富山へ来て旬の美味しいものを食べて、それから温泉に入って癒されて、そして富山の産業を学ぶ。学ぶ中に、富山が自信を持って全国に誇れるもの、売薬であったり電源開発であったり…。売薬は富山が発祥の地と言われるけれども、なぜ富山の売薬が日本中に広がっていったのだろうかというようなストーリー。あるいは砂防博物館に行ったら、立山カルデラは何年ごろに地震があってこうなって、ああなった、というものがありますね。そういったものを学んで帰りたいという学びの一つに「産業」というものが入ってくるのであって、産業だけでお客様を呼び込むことは多分できないと思いますが。

【長尾】 そうですね。当然ながら難しいでしょう。

【櫻田】 では、そういう部分をどのように見せるかということになります。

 

ラッピングして産業を見せる

【櫻田】 産業の部分をどのように見せるか。それは「ラッピング」ということだと思うのです。

 例えば、食なら「富山=ぶり」だとか、「富山=薬」だとか、それらを前面に出したような観光パッケージを作っていくことも必要で、それを個人型旅行商品の中に盛り込んでいく。言うならば富山に泊まっていただき、見学する選択肢の中に、食にまつわるものや文化・芸能にまつわるもの、それから産業にまつわるオプション的なものを幾つか入れていくことで、県外のお客様は来やすくなる。他方では滞留時間をいかに延ばすかということもすごく大切ではないかと思います。滞留時間が延びると当然消費額が上がるわけなので、富山市内でお金が消費されるということは、それにまつわる飲食店の方やお土産店の方、それからそれを作っている工場生産者の方々の売り上げも当然上がる。そうすると、観光客が10万人増えたら、1人1万円×10万人ということになる訳で。100万人でもいいですが(笑)。

 行政や商工会議所は、それらがどのように波及していくのかを県民・市民にアピールすることによって、観光客を優しく招き入れるような風土をつくっていく。「食を目当てに来たけれど、今度は産業で来よう」、「次は文化・芸能で来よう」というふうに、観光客をリピート化させていくことがすごく大切ではないかと私は思います。

 

他の都市にはないものを見せる

【長尾】 そういった点で行政サイドとしては、どのように考えておられますか。

【坂井】 そうですね。富山市では、そういった産業と観光地を合わせて市民の皆様、あるいは県外からの観光客へのPRとしては、春と夏に出している定期観光バスがあります。例えば廣貫堂さん、日の出屋製菓さん、梅かまさん、金岡邸(薬種商の館)のほか、新たな公共交通であるライトレールを組み合わせたコースを作っています。ライトレールに乗って岩瀬地区へ行って岩瀬の町並みを見ていただく。そこには北前船があって、またそのすぐ前には環境産業の先駆けであるエコタウンがある。観光地プラス産業、そしてライトレールという公共交通。こういうものをミックスしたものも、今、定期観光バスのルートの中に入れています。このように、今後は産業観光の中心になっていくものとして、やはり他の都市にはない富山の薬とおいしい味覚というものを中心にした観光ルートの設定が必要だと思います。

 薬といえば、薬屋さんあるいは製造している所を見に行くだけでいいのかというとそうではありません。薬というのはいろいろな効能があるわけです。富山へ行けば健康になれる、富山で1週間でも過ごせば健康になって帰れるという観光パック旅行でしょうか。特に団塊世代の方々というのはある程度お金もある、余暇もある。そういう人達が今一番求めているのは「健康」ではないか。既にJTBさんもやっておられると思いますが、来年度は、富山で健康になって帰ってもらうというようなパック旅行を研究し、JTBさんをはじめ旅行会社の方々とも一緒になって作っていきたいと思っています。

 一つの具体例とすれば、来られた方に健康診断を受けていただいて血圧やコレステロールなどを測っておいて、その後、薬膳料理を食べていただくとか、あるいは癒しの森で過ごし、温泉で体を休めて、3日後、4日後に帰られる際にもう一度健康診断をして、その時の数値がどうなっているのか。そのような、実際に体験していただいてこうなりましたという観光パック旅行を企画し、大きく全国にPRをしていきたいなと思っています。

【朝日】 いい企画ですよね、薬膳料理。富山らしい。富山に来てもらって健康になって、元気になってお帰りいただいく。それでPRしてもらって、またリピーターとして来ていただくというように、薬という「強み」を切り口に、特化させていくことが大切ですね。

【坂井】 薬というのはほかの都市にはない凄く魅力的なパワーを持っているので、これを何とか活かしていきたいと思います。

 

民間と行政のタイアップで見せる

【長尾】 富山というのは宣伝下手だとか、情報の流し方が下手だとかとよく言われますが、旅行会社等と行政とがタイアップすることで、いろいろな見せ方が可能になりそうですね。

【櫻田】 宣伝や情報発信を、富山はやっているか、やっていないかといったら、結構やっていると思うのですが、ただ、単純に言えばタイミングが合ってないのだと思うのです。例えばいろいろな県や地区の催事があったときに、相乗りすればいいのに単体でやっているから浸透力が薄れるのではないでしょうか。

 今、富山県が東京の山手線でラッピング電車をやりましたね。それに乗じて観光宣伝を組み合わせて何かするとか、うまくかみ合わせていけばすごく大きいパワーが出ると思います。

 伝達ルートの中で、旅行者にお届けするルートをきっちり押さえていくということが必要です。パンフレットやカタログを作るまではいいのですが、ではこれが最終的には旅行者へどのルートで渡っていくのか。それから新聞・ラジオ・テレビもあるでしょう。インターネットもあるでしょう。旅行者への伝達ルートを全部一回整理して、それで同時に、波状的にドンと流すといいのではないかと思います。

【坂井】 確かに効果的ですが、行政サイドとしては、どうしても予算をつけてからの実施にならざるを得ない面はあります(笑)。

【松本】 これは行政と、それこそ民間がもうちょっと連携していく。究極的には観光というものを一つの産業にしていかなければいけないのだから、正直、今回櫻田さんのお話を聞きながら、やはり産業観光は、人口減少社会の中でいかに交流を深めながらそういう需要を高めていくか、ということに意味があるのだと思いますね。

 先ほどから指摘しておられますように、呼び込む手段と言いますか、仕組みづくりといいますか、こういったことを官民で十分議論して、どう商売に繋げていくか。来られた人たちに、いかに満足してもらいお金を落としてもらうかということが大事だろうと思うのですね。そういう意味では、富山は今まではそれをちょっとなおざりにしていたところがありますから、これはやはりこれからの重要な問題と言えます。

 

語り部が面白く見せる

【松本】 それと、産業観光と言っても、観光と産業というのはなかなか結び付かない。やはり観光というのは物見遊山が主ですから、楽しむものなのです。それを産業と結び付けることによって「体験型」とか「学習型」といわれますが、あまり面白がられないのですよね。ですから、先ほどおっしゃっておられましたが、産業はやはり従であって、観光というものを主体にしていかなければいけないので、この辺りをどうコーディネートしていくか。

 一つは、やはり産業の場合は地域全体あるいは富山市全体の歴史、それからやはり産業の由来ですね。歴史と言いましょうか。立山なり、八尾のおわらなり、そういうものと結び付けながら、例えば売薬や薬業関係のところへ誘導するという具合に、これは従でくっつけなければいけないと思うのですね。その中でいかに面白く伝えられるか。やはり語り部を養成していくこと。ユーモアを持って、要領よく飽きさせないで説明すること。これは慣れだと思うのです。そういう人達を産業の分野で養成して、面白く理解してもらう。論理性を強調しすぎて、こうだからこうなのだという、あまりにも難しいことを言われると全然面白くないですからね。ですから、いかにうまく伝えるかということでは、語り部を養成することが、やはりこれからの産業観光を考えた場合には必要だと思いますよ。

 

修学旅行の素材として見せる

【櫻田】 産業観光を盛んにすることで、富山県自体が修学旅行の受け入れ先になれば、これほど結構なことはないと思います。

 富山への修学旅行といえば、昔はスキー修学旅行というケースが多くありました。やがて新幹線が開通すれば高速・大量輸送が可能になり、2泊3日や3泊4日ぐらいに限定された修学旅行でも、富山の産業観光はデスティネーション(旅行の最終目的地)を決める素材として決め手になります。

 例えば、首都圏や南東北、北関東、千葉などの子供達には恰好のセールスツールになると思います。富山には自然があって、工業が盛んで、最先端の工場がある。例えば皆さんもよくご存じのYKKさんの工場。どうしてここにファスナーの工場があるのか、産業観光をしながら学ぶ。そして、富山で泊まって、富山の食を味わう。富山のお米の話をしたときに生産者の農場を見に行くとか、あるいは漁業だったら定置網を見に行くとか。帰りは立山を越えて長野へ、また岐阜へ、名古屋へというのも多分有り得ると思います。地元の支店長の立場で言えば、富山支店として売上げが立たないけれども、当社のどこかで立つわけですから(笑)、そういう素材提供をしていくことが当然仕事になってきます。

 それから、富山支店では新入社員が来ると出身地の自慢は何かと聞くのですが、他府県の人は結構はっきりと言いますね。名古屋出身の社員なら「ういろう」とか「金のしゃちほこ」とか(笑)。しかし、富山の出身者は一体どう言っているのでしょうね。「あなたの出身は富山県だけど、富山で自慢できるのは何?」と聞かれたら。多分、立山とか蜃気楼とか何か言っているのだろうなと思うのですが、そういう意味では、県内の職場見学とか工場研修というのは、やはり自分たちが将来大人になったときの郷土愛につながっていくのではないでしょうか。

 

地元の子供達にも触れて欲しい

【朝日】 そうなんです。産業観光は、今ほど櫻田さんがおっしゃったように、もちろん県外のお客様に向けて、ラッピング化、パッケージング化して見てもらうことに意味があると思います。ただし、産業観光にはもう一つ意味があって、地元の子供達にこそ、産業に触れ、理解し、興味を持ってもらい、将来は郷土富山を愛するファンになってもらいたい、と私は考えているのです。

 これまでやってきて感じたのですが、産業観光を勉強するということは富山の歴史や文化を勉強することにほかならないわけで、例えば売薬さんとか薬というものが、いかに富山のいろいろな産業にいい影響を及ぼしているかということを、あまり皆さんご存じではないと思うのですね。ですから、産業観光をやる意味としては、県外の人達、あるいは大人向けだけの観光というのではなく、子供達にそういったことを勉強してもらうことによって、富山に対する興味や愛着をもって、将来は就職を考えてもらうことにもあると思うのです。私たち商工会議所では、むしろそういったことを踏まえた活動として、現在、産業観光に取り組んでいるのです。

 言っては何ですが、なかなか最近は学校で地元の歴史のことを教える余裕があまりないのではないでしょうか。だから、産業観光をきっかけに、富山のファンになっていただいて、将来は就職し、富山に根を下ろしてもらいたい。そして、郷土を愛していただけたらと思うのです。

 これは産業界にとっては大変有難いことではないかと思うのです。特に富山県は学生の皆さんが、県外に進学したきりで帰って来られないものですから(笑)。

 

富山の産業界の実力

【朝日】 例えば、子供達がすごく興味のあるロボットの一般見学を受け入れている生産技術さんがありますよね。「富山にこういう未来型の会社があるのか」ということで、富山の産業界の実力を含めて注目していただいているのは事実だと思いますね。

【松本】 この前、観光議員連盟20数人で、世界的に有名な産業用ロボットを製造する企業でいろいろとお話を聞いたのですが、ロボットの一定で機械的な動きを見ると、これが日本の経済を支えているのだなという感じがします。専門家の見学が殺到しても受け入れておらず、そういう極度に専門的な部分では、企業としても公開し難い面があるのは分かりますね。

【朝日】 専門的な部分でなくても、全体的に「ロボットというのはこうだよ」というところでいいんです。全国の高等専門学校がやっているロボット大会で、子供達がすごく興味を持って見るように、そういう技術的なことではなくても、ロボットというのはこんなに多岐にわたっているよ、というのが面白いのだと思います。今はおわらを踊る「おわらロボット」とかもあるしね。

【松本】 そうですね。子供から大人までみんなが喜びますね。全体的な動きがあって、見ていても面白いですよね。

 

地元の人々が誇り、発信する

【長尾】 まちづくりの面では、産業観光はどのような効果が期待できますか。

【坂井】 私はいい例がライトレールではないかと思うのです。単なる電車ではなくあのLRT、高齢者にも優しく、子供達も大変興味を持って乗ってくれるLRTを、今は岩瀬までですが、今後、2年後ぐらいには富山の中心部を循環させます。これはまさに公共交通を生かしたまちづくりで、その一つとしてLRTという素晴らしい交通機関を富山市が率先して動かしているということ。これが一つのいい例ではないかと思います。

 それと、富山市内にたくさんある最先端の素晴らしい企業を、地元の子供達に、あるいは大人の方々にも知っていただく。今まではなかなかなかったのですが、「あの会社の○○が素晴らしい」「○○で素晴らしいのは富山市」というように、地元の皆さんが地元を自慢する、PRするというようなところまでもっていければ、全国に自信を持って情報発信できるのではないでしょうか。県外へ行ったときに「富山にはああいういい会社がある。一回ちょっと見に来ないか」と。自慢したりPRしたりすることは、富山の人達には苦手な分野かもしれませんが、ものづくりの県だからこそ、企業をもう少しPRしていただきたい。世界に冠たる技術を持っている有数の企業が、実際に富山にあるのですから。

 そういったことも、まちづくりの目的の一つとして考えてもいいじゃないですか。

 

富山の良いイメージが企業の事業展開に波及する

【長尾】 企業側から見ますと、観光客が増えるということは望ましいことかもしれないのですけれども、企業が産業観光に取り組むことについて、どのようにお考えですか。

【朝日】 どちらかと言うと、富山は少し閉ざされたイメージのある県ですが、産業観光に取り組むことによって「富山のイメージが変わったよ」ということになれば嬉しいですね。富山の人というのは真面目に、地道に、コツコツとものづくりをやってきた。それをもっとPRすることによって、富山に来ると水もいい、機械もいい、人もいい、だからいいものができますよ、と。それによって仕事が富山県に流れてくるということが一番有難いですよね。こういう時代ですから、県内外から仕事がいただけるというのは有難いです。

 例えば製薬業では、富山のきれいな水、自然、勤勉で優秀な人がいるから、製薬企業を誘致できたりOEM(他社ブランド製品の受託製造)を担えたりしている。薬だけではなく、精密機械、自動車部品だってすごい企業が富山にはある。所謂「日本の製造基地」「日本のスイス」というぐらいのイメージを持っていただければ、過去の富山のイメージを払拭してもらえるのではないかと思うのです。県も市も企業誘致活動をなさっていますが、やはりそのバックボーンにあるのは産業界の実力であり、人という「素材」の力であると私は思うのです。富山の教育もそうですよね。

【長尾】 産業観光により、富山の良いイメージが企業の事業展開につながっていくわけですね。

【朝日】 そうです。だから、総体的には仕事が増えますよ。そのためにも、富山の将来を担う人材の確保がどうしても必要なので、何度も繰り返すようですが、子供達には地元の素晴らしい企業に目を向けてもらいたいという思いがあるのです。

【長尾】 長い目でみれば、企業にとって産業観光の貢献度は非常に高いというわけですね。

 

産業観光の背景には、価値プロの理念

【松本】 これまで限られた観光資源しかなかった富山で、多くの人を呼び込むためにも、新たな魅力を産業の中から見いだしていかなければなりません。でも、富山は国内だけではなく世界からも人を呼べる要素を確かに持っている、と私は思います。

 私の実体験から言いますと、地域の方々をいろいろな所へ、産業観光ということで地域の企業やあるいは電力の施設などへ案内すると、「あぁ、こういうところもあったのか」とか、富山の産業というか経済力の強さというのはやはり電力を中心としたこの身近な産業にあるのだなということを実感される。それだけ富山の人というのは地元のことをあまりご存じない。ですから、先ずは、こういうことを身近なところから発掘していくということは、子供達に対してもかなりの影響が出てくるのではないかと思いますね。

 地元の人々自身に地元の良さ、素晴らしさを知ってもらうという意味では、商工会議所が5年ほど前から始められました「富山市価値創造プロジェクト」が背景の理念として大きく働いているのではないかと思うのですよね。私たち議員の間でもそういうことを産業観光の理論的な根拠とし、理解しているわけです。

 

“富山型”産業観光の面白さ

【長尾】 全国各地で取り組まれている産業観光ですが、富山ならではの面白さをどう仕掛けていくか、これからの課題ですね。

【朝日】 旅行者であろうとビジネスマンであろうと、富山に来られるお客さんは、やはり薬を買って、美味しい魚を食べて、買って帰りたいと希望される方が8割か9割いらっしゃると思うのです。工業だけが産業観光ではなくて、どれもが産業観光につながる。つまり水産業も農業も全て「産業」なのです。ですから、そういったものを一つのモデルルートとして、先ほどおっしゃった「ラッピング」する面白さがあると思います。

 ただ、富山の場合はやはり宣伝下手なので、例えばこういう国内観光総合誌『観光』(発行:(社)日本観光協会総合研究所)では産業観光の20選が掲載されていますから、是非ともこういう全国誌に富山も載せてもらえるようにしたい。そのためにも、「富山ならでは」の産業観光モデルルートを作りたいですね。

【坂井】 そうですね。やはり産業観光というのは、産業界だけでもだめだと思いますし、行政だけでももちろんいけません。ですから、私はやはり産業界と旅行会社の方々、それに行政、この連携で、今おっしゃられたような形でモデルルートを作っていきたいですね。例えば、そのモデルコースをJTBさんでやってみる。ちょっと赤字が出たとなれば、そういうところは初めのうちは行政が少し支援してでも、何回かそういうものをやってみる。それにより「富山ってこういうのをやってるよ」とPRしていくことが大切だと思います。

 それから、今も関係の方々と協議をしてるところですが、「癒し」について少しお話をしますと、特に薬関係、富山の自然、それとおいしい食、これらを組み合わせた観光パック「健康と癒しの旅」というモデルルートを是非作りたい。そして、平成20年度に富山で開催する「全国産業観光フォーラム2008」では、全国から来られる皆さんにそれを体験していただいて、その評価も聞いてみたいと思っています。

 

観光客が富山の生活や文化を共有できる仕掛けづくり

【櫻田】 旅行者の視点からすると、結局はその地域の人達の生活や文化を共有したいのだと思うのです。富山には、そういうものがたくさん揃っているので、可能性はもっともっとあると思います。我々受入側としては、旅行者の方々に地域の人達の生活や文化を共有していただくためのメニューや、足として利用しやすい交通手段をどのように整えていくかということが、やはり大切なのではないかと思いますし、富山はそれができる環境にあると思います。富山駅から徒歩エリアとしては、商工会議所のこの辺までは10分くらいの距離です。その中に見どころがあれば、素晴らしい街になっていくのではないかと思います。その見どころには産業が絡んでいますから、そういう部分では、富山は非常に先が明るいのではないかと思っています。

 

来年の全国大会開催に向けて

【長尾】 来年(平成20年)9月に、富山市で開催することが正式に決まった「全国産業観光フォーラム2008」に向け、意気込みをお聞かせ下さい。

【朝日】 名古屋からスタートして8回目にあたる来年に富山を選んでいただいたということは、いろいろな意味で全国から非常に注目されていると思います。400〜500人規模の大会になろうかと思いますが、産業観光に関してはスタートが早かった高岡市と一緒に取り組み、是非とも富山県全体に広げ、全国のみならず、県内の皆さんにも来て、見ていただきたい、と私自身は思っています。

 もちろん、全国の方々にも、先ほどお話があったようにリピーターを作るという意味では、これを機会に是非ともPRさせていただきたいと思います。来県されるのは、全国の関係方面の方々ばかりですから、その方々が地元に帰られて「富山は良かった」と言っていただけるような大会にしたい。一人ひとりに、富山の広報マン、とやまファンになっていただけたら、これは絶大なる口コミ効果です。

 そのためにも、富山の皆さんには、産業観光とは何かということではなくて、地元の皆さんに地元のことを先ず知っていただくということが一番のポイントだと思っています。そして是非ともご支援ご協力をいただきたいと思いますので、宜しくお願いいたします。

【長尾】 以上、「富山を魅せる産業観光」と題して、新春座談会を行ってきました。

 富山の産業は売薬業がルーツと称されるように、その歴史にはストーリー性があり、ロマンがあります。この富山の産業の形成過程を経済の視点ではなく、観光の視点、所謂「産業観光」から捉え直すことは富山らしい観光の在り方だと言えます。また、富山らしい産業観光の魅せ方もご指摘いただいたように、幾つか考えられます。さらに、産業観光に取り組む企業は、企業のイメージ変容やイメージ・アップを図ることができ、将来的には、当該企業の雇用市場や販売市場の醸成を期待することもできます。

 富山の産業観光は独自性が高く魅力にも満ち溢れており、ポテンシャルも十分あります。最後に、来年富山市で開催されます「全国産業観光フォーラム2008」が契機となって、富山の産業観光が大きく羽ばたくことを祈願して、座談会を終了させていただきます。

 ありがとうございました。


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