会報「商工とやま」平成22年5月号

特集2
富山ならではの食材で、富山の新しい銘菓を。
富山市菓子工業組合の取り組み


 お菓子は、四季折々の祭事や人生の大切な節目、そして日常の楽しみとして無くてはならない大切な食文化の一つです。しかし、私たちの食生活や生活習慣の変化とともに、お菓子を取りまく環境も大きく変化しています。

 そんな中、富山ならではの食材を使った新しいお菓子を作り、富山の菓子業界を広くPRしていこうという新たな試みも始まっています。今回は、富山市菓子工業組合の田中健一会長にお話を伺いました。


富山の赤米を使った新製品を


 富山市菓子工業組合では、「富山ブランド開発研究会(座長/新庄利夫)」を立ち上げ、昨年から富山県が開発した赤米「富山赤71号」を使ったお菓子作りに取り組んできました。そしてこの春、組合加盟店のうち11店から、ロールケーキ、上用饅頭、焼き菓子、半生菓子、せんべい、おはぎ、みたらし団子、あんパン、シュークリーム等、各店ごとの得意分野を生かした、赤米を使ったお菓子が新たに発売されました。初回は、3月19日から3月23日まで各店で販売。そして、4月10日、11日にはチンドンコンクールの審査会場となった富山市総合体育館でも販売されました。お店によっては、期間終了後も販売される商品もあるとのことです。富山ならではの特徴あるお菓子として、いま注目を集めています。

●赤米を使ったお菓子の販売店
新栄堂、福寿堂、平安堂、大野菓子舗、佐々木千歳堂、いしばし旭堂、瀧味堂、富山メルヘン、ボン・リブラン(やかもち蔵)、磯野屋菓子舗、田中屋

富山赤71号とは


 「富山赤71号」は、県の農林水産総合技術センターが平成11年から開発に取り組み、平成20年に発表された新しい品種の赤米です。健康志向の高まりに対応し、慶事にも活用できるお米を目指して開発された赤米です。コシヒカリの遺伝子を98%引き継いでいるため、コシヒカリの特長である適度な粘りや甘みがあり、従来の赤米に比べて味も色つやも良いとか。また、従来の赤米同様、抗酸化成分も多く含まれているそうです。


富山のブランド菓子へ


 「富山独自の赤米を使い、組合員共通の富山ならではのお菓子を作って県内外に広くPRしてこうと、県とタイアップしてこのような取り組みを始めました。昨年夏頃から今年の春の彼岸を目標にして、組合で赤米の米や米粉を購入し、試行錯誤を重ねてお菓子づくりを始めました。赤米を使っているから、そして、体にいいからというだけではお菓子も売れない時代です。舌の肥えた消費者を満足させるため、各店それぞれが得意とする、和洋のさまざまなお菓子にするため工夫を重ねてアレンジし、この程、ようやく商品化することができました。今後も赤米を使ったお菓子を、より多くの組合加盟店で開発し、販売していけたらと考えています」

 赤米の赤は、一般的な精米をしてしまうと無くなってしまう米ぬかの部分に色素と抗酸化成分があるため、それを風味よく和洋のお菓子に生かしていくために、精米方法も含めて何度も試作が重ねられたとのこと。赤米ならではの新しい風味とおいしさを、ぜひたくさんの人に味わってもらいたいと意気込んでいます。


多種多様なお菓子


 お菓子と一口に言っても、現代では和洋を問わず様々なお菓子があります。和菓子では、茶席等に用いられる上生菓子(ねりきり・羊羹・饅頭・最中・きんつば等)、干菓子(琥珀唐・和三盆糖を使った打物・卵白を使った乾燥菓子ほか)、どらやき、カステラ等の焼き菓子、桜餅、柏餅、おはぎや大福などの餅菓子、さらに、すはま、甘納豆、落雁、あられ、せんべい等。洋菓子では、各種ケーキ、シュー菓子、パイ、タルト、マカロン、ワッフル、プリン、ババロア、ゼリー、チョコレート菓子、キャンディ、キャラメル、ガム、クッキー、ポテトスナック等、実に多種多様です。最近では、和菓子と洋菓子の垣根を越えて、それぞれの良さをミックスした新しいお菓子も盛んに作られるようになってきました。しかし、富山にはまだ独自の伝統の菓子文化も残っています。


富山の行事とお菓子


 昔から富山では様々な行事や人生の節目に、また、中元・歳暮等の贈り物に、そして勤勉に働く仕事の合い間のだんらんや憩いの時に欠かせない物としてお菓子は私達の生活と共に歩んできました。

 例えば、結婚して初めての12月8日の針歳暮には、実家から嫁ぎ先へ「ながまし」と呼ばれる大福餅を届け、近所や親戚へ配る風習があります。誕生祝いや、初節句、七五三、成人の祝いから還暦祝い、そして法事の「饅頭」まで、様々な暮らしの場面で欠かせないのが慶弔用のお菓子です。富山の結婚式の定番の鯛のかまぼこも、もともとは落雁で作ったお菓子の鯛からヒントを得たものだそうです。お菓子は人生のあらゆる場面を彩る、伝統的な生活文化の大切な一部なのです。

 「しかし、最近では特に富山の都市部では核家族化が進んでいることや不況の影響もあり、慶事に家族や親戚でお祝いをしたりお菓子を贈る家庭は減ってきています。ですから、餅菓子や饅頭、どらやきなどに代表される注文菓子の需要は減っていますね。若い夫婦だけのご家庭では、このような人生の節目ごとの風習をご存じない方も多いのではないでしょうか。長く継承されてきた伝統文化が途絶えてしまうのはとても残念なことです。組合でも、富山の伝統行事や四季の祭事などとお菓子の関係、その歴史と良さをもっと伝えていけたらと考えています」


菓子組合の歴史


 同組合結成の歴史については正確な資料や記録は残っていませんが、戦中・戦後の統制経済の中、菓子製造業者は砂糖などの原材料の確保に大変苦労したことがきっかけだったとのことです。各店ごとに原材料が配給され、しかも不安定な時代でした。そこで、気の合った店同士が団結して、配給を受けやすい体制を整えていったのが始まりだとか。さらに、戦後は、戦火で休業していた店が営業を再開するようになり、各店が積極的に団結して配給への体制を整えていったそうです。

 そんな中でいくつかのグループが集まり、組合の前身である「富山菓子工業会」が結成されました。甘いものに渇望していた戦後の時代。原料さえ揃い、とにかく作れば売れる時代だったそうです。その後、まもなく統制経済が終わり、各店が自由に原材料の調達ができるようになりました。やがて昭和30年代には会の規約も作られ、現在に通じる組合の基礎が作られていきました。

 「今こうして組合が存続して活動出来るのも、歴代会長(福寿堂・稲荷初穂氏、新栄堂・新庄利夫氏、月世界本舗・吉田榮一氏、竹林堂本家・山崎善雄氏、鈴木亭本店・鈴木宇五郎氏や全国菓子工業組合連合会の理事長まで務められた鶴木直政氏や外他界された諸先輩達)や役員・組合員の方々の献身的な努力の結果だと感謝しています」

 現在の同組合の組合員は73名で、73店舗が加盟しています。平成17年の富山市の合併で、旧婦中町、旧八尾町のお店も加わりました。

 「旧富山市の時代には、生菓子部会、焼菓子部会、餅・饅頭部会という部会を作っていましたが、一昨年、8つの地区からなる組織に再編しました。これは、やはり、それぞれ地域毎の特徴を生かしていくためです。今後は、講習会などを通して一般消費者の方々に地元の手作り菓子の良さ等それぞれの地域により密着した活動ができればと考えています」

 現在、町内会や婦人会、校下のPTAや高校の調理・製菓実習、富山物産センター等で地道に活動している組合員もいらっしゃいます。


組合員としてのメリットを強化


 同組合では、技術、経営、衛生などについての各種講習会の開催、さらに安価に入れて、補償も充実したPL保険加入の推進をはじめ様々な活動を行っています。また、組合員であれば、4年に一度開催される菓子業界の一大イベント「全国菓子大博覧会」に参加・出店することができます。ここで賞を受賞すれば大きなPRとなります。

 その他、研修旅行や、今回の赤米を使った商品開発など、組合員でなければ作れないような菓子作りなどを通して、皆が一体となった活動を進めています。

 今後さらに組合加盟店としてのメリットを感じてもらえるような取り組みを進め、会員自体も増やしていきたいと話す田中会長。また、平成15年に駅前のCiCで開催された「とやま和菓子フェアー」では、目の前で作られた上生菓子の味わいと一服の抹茶を楽しんでもらう「実演販売コーナー」や、職人の技を間近で見せて教える「和菓子作り体験コーナー」等、趣向を凝らしたイベントを開催。平生味わえない、作りたてのお菓子を食べることができるとあって、多くの人が訪れ大好評だったといいます。企画から運営に至るまで大変ですが、組合員が一致団結して、今後再び、数年に1回はこのようなイベントも開催できれば、と田中会長は抱負を語って下さいました。

 「組合では、家族経営の店が多いのですが、やはり後継者不足の問題もあり会員数も減ってきています。しかし、今回の新商品開発のような新しい試みをはじめ、多彩な活動で業界の活性化を積極的にはかっていきたいですね。それによって、業界内でも組合員としてのメリットをアピールし、組合への加入も増やしていきたいと考えています」

 また、青年部では次世代にお菓子の良さを広め、若手組合員の出会いの場を創造しようと、一般の人を対象にした「お菓子クッキングセミナー」を開催しています。20歳以上の独身女性が優先参加できる、お菓子を通じた「婚活」の意味合いがあるとのこと。後継者不足に悩むなか、今後の成果に期待したいところです。


お菓子本来のおいしさを


 県外から大量生産されて入ってくる流通向けのお菓子は、どうしても保存が最優先され、お菓子本来のおいしさが薄れてしまいます。保存を最優先するため水分を調整し、保存料も許されている範囲で目一杯入れることになり、味は二の次になってしまうのです。

 「添加物を極力控えて、できたてのお菓子が食べられるのは、地元のお菓子屋ならではの楽しみです。消費者の皆さんにお菓子に興味をもっていただき、作りたてのお菓子のおいしさを、もっと味わっていただきたいですね。実際に食べ比べていただくと、そのおいしさはきっと分かっていただけるはずです。『お菓子って、こんなにおいしいものなんだ!』と思っていただけるといいなと思いますね。

 そして今、流通のグローバル化等で食品不安が増加している中、安心・安全を第一に地場商品を見直していただくよう、私達会員一同、一所懸命努力しております。

 また、お菓子は地域文化のバロメーターとも言われていますので、郷土富山の特色ある食材を使い、四季折々の魅力ある菓子を作っていきたい。そしてお菓子作りを通して情報を県内・外に積極的発信し、将来を担う若い世代にしっかりバトンタッチしていきたい」と話して下さった田中会長。インターネットなどで全国各地のお菓子を気軽に手に入れることができる「お取り寄せ」が人気となっているいま、富山ならではの良さを感じるお菓子、そして人生の節目を彩るお菓子の良さを見直し、さらに全国にアピールしていきたものです。


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