会報「商工とやま」平成22年6月号

特集2
 地域で長く愛される店であり続けるために。
 固定観念を変えた専門家派遣相談


 当所は、今年度より中小企業が抱える高度かつ専門的な経営課題に対し、県内の各支援機関が連携して支援を目指す、中小企業応援センター事業(名称/元気とやま創造中小企業ネットワーク)に取り組んでおります。当事業では、新事業展開(経営革新、農商工連携など)、創業・事業承継、知的資産経営(強みを活かした企業の経営改善、経営計画の作成)、事業継承などの様々な問題に対し、各分野の専門家を継続的に派遣して解決に向けた支援をしています。

 今回、当所から専門家を派遣し、経営課題の解決に取り組んだYSP富山中央の酒井克宗さんの事例をご紹介します。ご一読いただき、自社(店)の経営課題の解決を、とお考えの方は是非ご利用ください。



ヤマハの正規取扱店として


 YSP富山中央は、日本海側初のヤマハスポーツバイク正規取扱店として誕生し、スポーツビッグバイク・逆輸入車・スクーター・電動自転車、そして除雪機などの幅広いヤマハ製品を扱っています。

 お店の歴史は古く、創業は昭和23年。店長の酒井克宗さんの祖父である宗平さんが始めた自転車店がスタートでした。その後まもなく、克宗さんの父で現社長の酒井宗一さんが店を引き継いでから徐々にバイクの分野にシフトし、20数年前からはヤマハの正規取扱店となりました。以来、YSP富山中央は、地域に根付き、多くのお客様の信頼を得るお店として成長を続けています。

 同店は現在、社長の宗一さんと、息子で店長の克宗さん、そして、宗一さんの妻の恵子さん、克宗さんの妻の希世子さんの家族4人で運営されています。克宗さんは大学卒業後、ヤマハで3年間、整備の修行をして帰郷。以来、父の宗一さんを助け、現在では店長として営業と整備を担当する、同店の中心的存在です。


新しいコミュニケーション方法を探して


 平成21年の4月から6月にかけて、計5回にわたって専門家による指導を受けたYSP富山中央。今回、克宗さんが専門家派遣を依頼された動機は、どんなことだったのでしょうか。

 「当店は、おかげさまで売上増が続いていますが、全国的に見た場合、バイクの総販売台数は年々減少傾向にあります。また、バイクは買って終わりという商品ではなく、購入後も整備やイベント開催などで、長くお付き合いが続く特殊な商品です。

 当店では、長年の実績もあり、買っていただいた後のサービスや整備については自信を持っていました。一度買っていただいたお客様であれば、他店に移っていかれることは少ないと自負していました。

 しかし、そんな今だからこそ、今後のために、既存のお客様とのコミュニケーションをより深め、引き続き、次の買い替え時にも当店からご購入いただけるようにしたい。そのための、新しいサービスが必要だと考えました。

 業界全体で見た場合、将来は決して楽観視できない状況がありますからね。新しい試みで、店をもっと盛り上げていきたい。そのためのアドバイスをいただけないかという思いがあったのです。

 また、これは、家族経営ならではの課題ですが、実の親子や家族ですと、なかなか面と向かって、改めて経営について話し合うということが難しいものです。外部の専門家から客観的なアドバイスをいただけるのは、とても良い機会だと思いました」


若者のバイク離れ


 同店は幅広い年齢層を顧客に持ち、特定の商品に偏ることもなく、様々な種類のバイクが売れているとか。ヤマハの正規ディーラーという大きな強みもあります。

 しかし、バイクの大型免許は以前に比べて取りやすくなり、大型バイクの販売が少し伸びている一方で、50CCバイクは昔に比べてあまり売れなくなっているそうです。

 また、子育てが終わった50代などでは、青春時代に親しんだバイクに再び帰る人も増えているそうですが、学生や若い世代が、バイクに乗らなくなっています。大学生になると、富山ではほとんどの学生は親に車を買ってもらうようになりました。これはバイクに乗れない期間が長い、雪国ならではの特色でもあります。

 かつては、多くの若者が憧れのバイクを買おうと、アルバイトをして一所懸命お金を貯めた時代がありましたが、最近の状況は大きく変化しています。趣味やレジャーが多様化したことや少子高齢化の影響、さらに、携帯電話などに毎月費用がかかるため、バイク購入に大きなお金を使えなくなっていることも一因と言われています。また、堅実指向の若者が増え、都会では最近、若者の車離れが進んでいるとも言われています。バイクの世界でも同じような傾向が広がっているのはないでしょうか。


携帯メールで情報発信を


 酒井さんは今後の経営にあたって、専門家のアドバイスのもと、これまでの経営を振り返りながら、改善を図ることにしました。

 バイク販売は何より、顧客とのコミュニケーションが大切な商売です。これまでの顧客とのコミュニケーションは、来店時以外では、年に2回のDMやホームページなどがありました。ラジオ広告を出したこともありましたが、あまり効果はなかったとのこと。

 そこで、顧客データを活用し、顧客にもっと楽しんでもらえる新しいコミュニケーション方法を検討することになりました。

 また、SWOT分析によって、同店の強みを見つけていきました。その結果、強みとしては、ヤマハというブランドを取り扱っていること、古くから地元に根付き、家族経営によるアットホームできめ細かなサービスを行っていることなどが挙げられました。

 その上で、戦略について検討。バイクに乗る様々なシーン設定をこちらから提案し、情報発信することで、購入後の利用促進に繋げてもらえるようにと考えました。また、継続的な情報発信ができるように、ITの活用も検討されました。

 以上のような検討の結果、顧客目線に立った新しいサービスとして、メール会員登録を始めることになりました。

 「最近では、携帯電話から情報を得ている方が多いということで、携帯メールを使った情報提供が面白いのではないかと考え、商品をご購入いただいた方に会員登録画面のQRコードが入ったカードをお渡し、メール会員になっていただきました。携帯版のホームページも作成し、メールと合わせて、会員向けの特典やイベントのお知らせなどを、定期的に、そしてタイムリーに配信することで、コミュニケーションを図っていこうと考えました。

 新規のお客様を獲得することも大切ですが、既存の顧客にいかに喜んでいただくかということを第一に取り組んでいます。まだ、大きく売上に結びつくといった効果は出ていませんが、この店で買って良かったと思っていただけることを目指しています」

 現在では、バイクの購入者だけでなく、当店で修理を依頼された顧客にも拡大して情報を配信しているとか。また、新規登録した場合、オイル交換20%引きなどのサービスも行っています。これも専門家からのアドバイスによるものです。


固定観念を覆すアイディア


 今回のアドバイスを通して、酒井さんが改めて気づいたことは、バイクを通して、お客様ともっと遊ばないと駄目ということでした。限られたスタッフで、サービスの仕事とイベントを両立することは難しいこともあり、ツーリングなどのイベントは年に数回程度にとどまっていました。

 「今後は、バイク人口は増加する見込みはあまり期待できませんから、まずは既存のお客様に楽しんでもらうことが大切だと思いました」

 ツーリングなども工夫して、お客様が家族で参加できるようにしたり、実施回数をもっと増やしていきたいという酒井さん。商品販売だけでなく、価値あるサービスや継続した情報提供に努めていきたいと語ります。

 そして、今回の専門家派遣を振り返り、次のようなメリットを実感したそうです。

 「商工会議所から紹介してもらった経営の専門家の人と話すことで、それまでのバイク屋としての固定観念から離れ、違った角度から自店の経営やサービスを見直すことができました。ツーリングの仕方にしても、例えば、集合場所としてコーヒーの割引などの特典のある店を設定しておけば、必ずしも、同じ日に当店に集合して一斉に出発する必要はないこと。そして、大幅な値引きでなくても、お客様にお得感を感じてもらえるサービスの仕方など。いろんなアイディアをもらうことができて、とてもよかったですね。なるほど、と思うことがたくさんありました」


 景気低迷や地域の人口減少によって市場の拡大も見込めないなか、いかに既存の顧客を満足させ、長く愛される店舗であり続けるかは、多くの店の課題です。

 価格だけではない付加価値の高いサービスを目指し、顧客を獲得し続けるために、今後どう取り組んでいけばいいのか。皆さんも専門家から客観的なアドバイスを受けて、現在の経営を見直してみませんか。



≪事業所紹介≫
 YSP富山中央
 富山市中野新町2丁目4−12 広貫堂電停前   TEL:076-421-8269   FAX:076-491-5291

▼機関紙「商工とやま」TOP