会報「商工とやま」平成24年11月号

特集1
一人ひとりが災害に備えていくための体験と学びの拠点
富山県広域消防防災センター


 今年4月にオープンした富山県広域消防防災センター。今回は、同センターの多彩な機能や取り組みについて、同センター副所長で富山県消防学校長の村井保雄さんと、主任の高井正博さんにお話を伺いました。


防災の総合的拠点として整備


 富山県広域消防防災センターは、県民の安全・安心な暮らしの確保を目指し、多様化、大規模化している火災、事故、災害等に的確に対応できる消防職員や消防団員の育成を図る施設として整備されています。災害発生時には被災地への支援拠点となり、平常時には県民の防災知識の普及啓発などを行う施設となっています。

 センター内に設けられた富山県消防学校では、県内の消防職員や消防団員を教育訓練しています。新しく採用された職員の初任教育をはじめ、幹部教育や専門的知識・技術を習得する専科教育など、年間を通じてさまざまな教育訓練が行われています。

 取材に伺った9月初旬には、この春採用された県内各地の消防職員40名の皆さんが、寮生活を送りながら初任教育の訓練を行っていました。


災害時の具体的機能とは


 「防災センターは大地震にも十分耐えられる耐震建築物となっており、災害時に備えた具体的な機能としては、県内の食糧・生活必需品等の備蓄拠点の一つとして、寝具、防水シート、非常食(3日分)、救助資機材、簡易トイレなどが保管されています」と語る高井主任。常時100トンの水が貯められている耐震性の貯水槽や井戸もあり、3日間の自家発電も可能です。

 「そのほか、災害時には救援物資の輸送、集積、配給を担う輸送拠点施設としての機能。県外からの応援部隊を受け入れるための受援機能。県庁が被災した場合に、県の災害対策本部を補完するための通信設備などが整えられているんですよ」

 通常は消防学校の寮として使用されている部分が、宿泊施設として災害対策本部要員や応援部隊を受け入れられるようになっています。


全国トップクラスの訓練施設


 同センターの訓練施設は、2585平方メートルの広さの屋内訓練施設、10000平方メートルの屋外訓練場(グラウンド)、放水訓練場、がれきなどから人を助ける訓練ができる倒壊建物訓練施設など、様々な訓練施設を備えています。

 「なかでも、主訓練塔は高さが45メートルあり、全国トップの高さを誇ります。また、この主訓練塔では多彩な訓練が可能となっているんです」

 水深1・2メートルまで水を貯めての地下水没訓練室。濃煙・熱気発生による訓練室。可動式仕切りをつけた迷路避難訓練室などがあります。取り付けられた窓の形も様々なものがあり、高階層の建物を想定した訓練ができます。また、高さ30メートルで、ロープを使って渡る訓練が可能となっています。

 さらに、水難救助訓練施設にある潜水プールは最深で10メートルあり、これも全国トップの深さです。水底は可動式で深さを変えることが可能で、実際の水の濁りを想定した気泡発生装置も取り付けられています。

 「そのほか、実火災訓練施設として、可動式の模擬家屋や模擬オイルタンクがあり、通常は建物内に置かれていますが、建物の外に出して放水訓練を行うことが可能となっています」


体験型学習施設・四季防災館


 4月のオープン以来、一般の方に人気となっているのが、四季防災館です。富山の春夏秋冬の災害や自然の特性を体験しながら学ぶことができる体験型学習施設となっており、自然災害の歴史とその克服に向けた先人たちの努力についても学ぶことができます。

 まず、建物に入ってすぐの場所にあるのが、過去に実際に起こった地震の揺れを体験することができる地震体験コーナーです。

 昨年起こった東日本大震災をはじめ、阪神淡路大震災、能登半島地震、関東大震災など、大地震の揺れをリアルに体験することができます。また、震度や加速度、地震の波形などのデータはモニターに表示され、視覚的にも地震を理解することができる装置となっています。

 このほか、事故・災害時の119番通報を、映像を見ながら体験できるコーナーがあります。携帯電話・固定電話・公衆電話の3タイプが揃っています。 

 2階にはスクリーンの火災に向かって初期消火体験ができるコーナー。流水の中を歩く体験コーナー。室内で大型台風並みの豪雨や暴風体験できるコーナー。ホテルなどの火災を想定して煙の中を避難する体験ができるコーナー、雪崩体験コーナーもあります。

 3階はパノラマラウンジとなっていて立山連峰を一望することができるほか、訓練用人形やAEDを使って、心肺蘇生、やけどや骨折時の応急処置などが体験できるスペースとなっています(事前要問い合わせ)。

 また、子供達のワークショップや多彩なイベントも開催されています。

 四季防災館ではこのような体験型施設のほかに、富山県特有の自然災害が、四季の気候と地形に由来することを地形模型と映像で学ぶことができるコーナーや、水害と治水の歴史を写真でたどるコーナーがあります。富山湾特有の寄り回り波や井波風、あいの風などの局地的な風の特徴を解説し、被害防止のための心得などが紹介されています。


富山県にも災害はやってくる


 未曾有の被害をもたらした昨年の東日本大震災、そして、最近頻発するゲリラ豪雨など大規模な自然災害が起こるなかで、人々の防災への意識は大きく変化しています。全国の自治体でも防災計画の内容を津波などの災害に備えたものへと変更されつつあります。

 比較的災害が少ないと言われる富山県ですが、いくつもの急流河川があり、過去には集中豪雨や台風などによる風水害も数多く発生しています。良く知られたところでは、安政5年(1858)2月26日にマグニチュード7・0〜7・1の飛越地震が発生。常願寺川上流の立山カルデラでは大鳶・小鳶の山崩れが起こり、大量の土砂が川をせき止め、さらにその2週間後に起こった地震で、土砂ダムが崩れました。2度にわたる大洪水で、流出家屋1612戸、死者140人にのぼったという大災害が発生しています。

 そのときの鳶崩れの土砂をはじめ、度重なる山崩れによって、立山カルデラにはいまも2億立方メートルもの土砂が残っていて、治水工事や砂防ダムによって富山のまちは守られています。

 さらに、最近では県内にいくつもの活断層があることがわかってきており、地震や水害、津波などへの備えもますます必要とされています。村井副所長は次のように語ります。

 「東日本大震災は1000年に一度の災害ですが、富山にも過去にはさまざまな自然災害が発生しています。災害はいつか必ず来るものと考え、そういう覚悟の上で日頃から備えておくことが必要ではないでしょうか。

 当センターで火災や地震、自然災害について疑似体験したり、学習したりして、万が一のときのために日頃から備えていただくことが大切だと考えています。

 実際の火事になると気が動転してしまい、そのまま消火器を火に投げ入れてしまう方もいるそうです。また、職場や学校、地域で、防災や避難訓練の経験があるか無いかが、いざというときに大きな差となって出てしまいます。

 皆さまには、一度だけでなく、当センターを何度も気軽にご利用いただき、様々な体験を通して、日頃からの備えにしていただければ幸いです」

 いざというときに備え、建物の耐震化や家具の固定、そして、救援の手が届くまでの3日間を生きのびるための食料や水の備蓄、防災グッズの備えなどを、家庭や職場ですすめてみませんか。

 そして、地域や職場の防災訓練に参加したり、今回のような体験施設で学ぶことで、いつかは起こる災害にしっかりと備えていきたいものです。


富山県広域消防防災センター
富山市惣在寺1090-1
TEL:076-429-9911


オススメ!「防災体験コーナー」

 四季防災館では解説員が案内するツアー方式の防災体験ができます。スタートは10時、13時、14時、15時からの4回です。

◇基本コース(所要時間2時間)
  防災シアター+地震体験+消火体験+煙体験+(応急手当・暴風雨体験・流水体験のうちのいずれか1つを選択)の4体験

◇短時間コース(所要時間1時間)
 防災シアター+(地震体験・消火体験・煙体験の3体験から2体験を選択)

※予約で満員の場合がありますので、四季防災館のホームーページで体験希望日の予約状況をご確認いただくか、四季防災館に直接お問い合わせください(予約は1年前から受付)。

・入場料 無料  ・開館時間 午前9時〜午後5時
・休館日 毎週月曜日(休日の場合は翌日に振替)、年末年始、館内点検日

■お問い合わせ
 四季防災館 TEL:076-429-9916



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