当所は今年度、富山県が実施する「県内企業人材養成モデル推進事業」を受託。この事業では、平成22・23年度に同じく富山県が実施した「県内企業人材養成モデル開発事業」の成果である「人材養成モデル」を活用した人材育成の取り組み等を推進しています。
「県内企業人材養成モデル開発事業」を受託した企業では、新規学卒未内定者等を1年間雇用し、人材養成計画のもと、実務や訓練等が行われ、当所はそのサポートをしました。2カ年の実施により、44社で69名が採用されました。本誌では、この事業を活用して人材養成を実践した企業をシリーズでご紹介しています。
今回は、平成22年度に当事業を活用した株式会社オオツカ代表取締役の大塚博道さん、専務取締役の大塚芳美さん、常務取締役の大塚智成さん、そして新規採用された藤井勇太さんにお話を伺いました。
鋳鉄鋳物で産業界を支える
株式会社オオツカは、昭和27年に大塚鋳造所として、現社長の大塚博道さんの父の博愛さんが富山市田中町で創業しました。昭和63年に株式会社オオツカに改組し、平成13年には現在の富山市一本木に工場、事務所を移転しています。
同社が製造するのは、鋼のように弾力性を持ち、しかも強靭な鋳鉄鋳物です。そのほか、産業機械用鋳物、油圧機械用鋳物、アルミ合金鋳物などを自社工場で製造しています。国内外で産業機械や工業用ロボットなどの重要な部分に使われる製品です。鋳鉄鋳物を素材から製品まで一貫生産する企業としては、富山市では唯一という貴重な存在となっています。
高精度の工作機械の部品として
代表取締役の大塚博道さんと専務取締役の大塚芳美さんは、鋳鉄鋳物の特徴について次のように語ります。
「銑鉄鋳物は、高い精度が要求される高品質の工作機械、ロボットなどの製品づくりに欠かせないものとなっています。鉄板を溶接したものと違って、鋳鉄鋳物はそのままの形、カーブをつくり出すことができ、より完成品に近いものが鋳造できます。
また、鉄板を叩くと振動がいつまでも続きますが、鋳鉄鋳物には相性の良いカーボンが入っていて、それが振動を抑えてくれます。工作機械は振動していてはダメですから、機械の土台部分やロボットのアームなどの重要な部分には鋳鉄鋳物が使われています。つまり、日本製品、そして日本の産業界が求める高い精度のものづくりに対して、鋳鉄鋳物は欠かせないものなんです」
小ロット、単品、短納期に対応
同社では、取引先が製造する機械の性質や性能に合わせて、様々な成分を調整した鋳物を生産しています。また、昭和59年に北陸では初めて高周波誘導炉(電気炉)を導入するなど、いち早く最新鋭設備を揃え、技術の高度化をはかり、顧客の高いニーズに対応してきました。
かつては「手込め」と言われる、人の手による鋳造が主流でしたが、それに加えて「機械込め」と呼ばれ、機械で砂を自動的に流し込み、温度管理ができる設備も導入しています。最近の取り組みについて、常務取締役の大塚智成さんは次のように語ります。
「海外で鋳造される大量生産のものづくりに対して、当社では、多品種小ロット、短納期といった多様なものづくりに対応しているところが強みです。特に、鋳物に必要な木型を移動ラックに保管しコンピュータ管理することで、木型の保存状態も良好となり、より短納期のものづくりに対応できるようになりました。通常は受注してから5日ほどかかる製品でも、当社では最短で2日から3日ほどで製造が可能です。
また、設備以外にも、社員同士のコミュニケーションの良さも当社の特徴です。工場での人の動きやスペースの使い方も含めて、いかに効率のいい環境をつくり、各工程の連携を図っていくのか。リーマンショック以来、社員同士が勉強会を続けてきた成果が、いままさに芽吹き、形になってきているところです」
職場のすべての工程を経験
今回の人材養成モデル開発事業によって採用された藤井勇太さんは、現在は製品検査部門に配属されています。藤井さんは、この事業によって、製造にかかわるすべての工程を、研修を通して経験することができたほか、現場作業で必須となるクレーン操作、玉掛け、フォークリフトの講習を受講し国家資格を取得。その後、銑鉄鋳物製造作業の技能検定2級にも見事合格しました。
「1年目ですべての工程を経験させていただけたので、作業の流れがよくわかるようになり、職場の方とのコミュニケーションも深めることができました。必要な資格を早く取得することができたことも今後の自信につながっていきますし、本当によかったと思います」
大塚常務は、藤井さんが早期に資格を取得したことで即戦力としての能力を高めたと同時に、職場の人材配置についても今後のヒントを得ることができたと語ります。
「これまで各工程ではそれぞれが専門職という位置付けで、人の異動はあまりありませんでした。しかし、今回の藤井君の育成を通して、異なった持ち場を体験することで横のつながりを深めたり、違う角度からの目線を持てるような社員が育つことは、とても大きなメリットがあると実感することができました。今回の人材養成事業で得たノウハウを、今後の社員育成にも、継続して活かしていけたらと考えています」
世界に誇れる仕事
同社で製造する鋳鉄鋳物は、産業用ロボットのアームや自動車用工作機械の部品など、まさに日本や世界の産業を支えています。そのほかにも新幹線の部品やディズニーシーの景観鋳物などにも使われているとか。
「勉強すればするほど、奥が深く、面白い仕事ですね。富山の工場で作られた部品が工作機械の一部となり、国内外の自動車メーカーでも使われていますし、心から誇れる仕事だと思います」と話す大塚常務。
また、大塚社長は長年にわたり富山県鋳物工業協同組合の理事長を務めるなど、その仕事振りと人柄から業界での信頼も厚く、長年にわたって組合活動にも貢献してきました。幅広い見聞をもとに、最新設備の導入も積極的に進めてきた大塚社長は「鋳物の仕事は、将来にわたって無くなることはありません。大量生産する中国などとは土俵が違い、精密さが要求される日本ならでは、当社ならではの鋳鉄鋳物の製造を、今後も追求し続けたい」と今後への意欲を話して下さいました。
富山や世界のものづくりを支える株式会社オオツカ。今回の人材養成事業も、その発展の一助となることを期待したいと思います。