今年もおいしい新米の季節となりました。富山市元町で108年にわたりお米の販売を続ける株式会社矢郷米。同社代表取締役の矢郷英哲さんと息子の矢郷大志さんに、その歴史と新たな取り組みについて伺いました。
明治38年に創業
株式会社矢郷米は、明治38年に初代の矢郷為次郎さんが、お米や肥料を取り扱う矢郷為次郎商店を現在の場所で創業したのが始まりです。
「当社の周辺は五百石街道と言って、かつて立山町などの農家の方が富山市内に買い物に来られた際の、まちの入り口でもありました。皆、ここでお米を売って換金して、まちに行かれたものです。この辺りは、いたち川の東側にあって山室村とも言い、現在と違って、田舎でしたね」と語る英哲さん。農村部とまちを結ぶ中間地点にあり、多くの人や馬車が行き交った時代がありました。
地域や業界の発展に尽くす
初代の為次郎さんは昔気質の頑固な人だったと言いますが、二代目で英哲さんの父の良一さんも、仕事一徹の頑固な人。しかし地域やお米の小売り業界のために尽力し、現在の同社の発展の基礎を築いた人でした。
「父の良一は戦後、満州から無事戻りましたが、米は統制のため、戦後数年間は自由に米を販売することができず、大変苦労したと思います」
良一さんは家族を養うために、さまざまな商売を手掛けていたとか。
「精麦をしたり、お菓子を作ったり、食堂を経営したり、馬車での運送業もしていたと思います。
父はお酒をほとんど飲まない人で、商売に酒の付き合いは必要ないとも言っていましたね。米を少しでも粗末にすると怒られました。無駄遣いを嫌う厳しい人でしたね」
昭和22年には株式会社矢郷米商店へと法人化。昭和26年に現社長の英哲さんが誕生します。
良一さんは、業界全体の発展のため市内の小売り業者で組合を組織し、共同の精米所を設けるなど、当時としては先進的な取り組みに力を注ぎました。
また、長年、地元の住吉神社の世話をして総代も務めるなど、世話好きで人望の厚い人でした。
現在の「元町」に町名変更する際にも、横浜や神戸の元町をイメージして良一さんが考えたそうです。
お米販売の自由化
昭和51年には、社名を株式会社矢郷米に変更。「商店」から脱却し、矢郷米ブランドのさらなる確立と向上を目指してのことでした。
一方、英哲さんは東京の大学を卒業後、南青山の米販売店で小売りのノウハウを学び、昭和52年に帰郷しました。子供の頃から、良一さんは、将来は英哲さんが家業を継ぐようにと話していたそうで、英哲さんも、ごく自然な流れとして受け止めていたそうです。
「私が富山に戻った頃は、消費者のニーズが変化し、お米の販売も少しずつ自由度が増していった時代でしたね」
米の販売は長らく国の管理のもとで行われていましたが、やがて徐々に規制緩和が進んでいきました。
現在は、完全に自由化され、誰もが自由に販売・購入できるようになりました。また、消費者の健康志向も高まり、より安全で安心なお米を求める人が若い世代でも増えていると言います。
同社では、一番の売れ筋である富山米コシヒカリをはじめ、減農薬や完全無農薬による有機米、腎臓病の方も食べられる低たんぱく米「春陽」なども取り扱っており、ここにしかない、こだわりの米を求めて来店、またはネット注文されるお客さまが多くなっています。
そして次世代へ
5年前には、英哲さんの息子の大志さんが入社しました。大志さんは現在2つのネットショップを運営し、四代目後継者として営業に新しいセンスを発揮しています。また、日本穀物検定協会認定の「お米アドバイザー」でもあり、お米のスペシャリストとして、お客さまに、さらに信頼できる情報を提供したいと意気込んでいます。
矢郷家が代々守ってきた矢郷米というブランドの信用と信頼を守り、その販路を従来の富山県内はもちろん、全国へと広げつつあります。
HACCP認証を取得
富山の生産者や卸問屋などから仕入れたこだわりのお米を販売する一方で、今年7月には、町村にある精米工場でHACCP認証を取得しました。これは業界として県内初、全国的にも数少ない画期的な取り組みとのことです。
「お客様からの打診がきっかけでしたが、HACCP仕様の衛生管理を徹底した工場で精米することで、より安全なお米を、安心して召し上がっていただきたいという思いがありました。販売先とのパートナーシップも強化し、競争力をさらに高めていきたいですね」とお二人は話します。
また、同社では、二代目の良一さんの時代から「マイナスイオン精米」にも取り組んでいます。これは、お米の酸化を防ぐために独自に研究開発した精米方法。微弱なマイナスの電流を米に流すことで、通常の精米より品質保持が長くできるそうです。
好みのお米を、好みの精米で
現在の同社の米の販売は、業務用向けやスーパーが約8割。一般家庭用が約2割となっています。
店頭での販売では、玄米が少量から購入可能で、その方の好みの分づき米に精米することもできます。
「玄米を買うお客さまが増えましたね。家庭の精米機で精米する方、また、ここで分づき米にする方もいらっしゃいます。女性ばかりでなく、お父さんと息子さんで買いに来られたりと、健康意識の高い方が増えている印象です」と話す大志さん。
店内には、県内でもただ一人しか作っていない八尾産の「おわら美人」のほか、黒部産の「電子農法コシヒカリ」、有機米の「林さんのコシヒカリ」、ミルキークイーンなど、さまざまなお米が並びます。
昨今の天候不順で、生産者のみなさんとともに刈り取り時期などの判断にとても苦労されているそうですが、今年もおいしい富山のお米が収穫できました。これからも、安心、安全なお米を追求して、食卓に笑顔をお届けしたいとお二人は語ります。
つやつやで、もっちりした炊きたての新米をほおばること。日本人にとってこれほど幸せで、贅沢な瞬間はないと言ってもいいかもしれません。ぜひ一度、矢郷米さんの店頭でお米について相談してみませんか。お米のプロならではのアドバイスをいただけると同時に、種類豊富なお米から好みのものを選ぶ、お買物の楽しさを味わうことができます。
株式会社 矢郷米
富山県富山市元町1丁目3番地22号
TEL:076-422-0085
●主な歴史
明治38年 初代為次郎さんが創業
昭和22年 法人化
昭和56年 富山市元町にイオン米精米工場が完成
平成 7年 富山市町村に精米工場(富山ライスセンター)を新設
平成15年 「新食感マイナスイオン精米」の販売を開始
平成16年 有機栽培米の販売を開始
平成21年 「全国の皆様に富山県産のお米を!」をコンセプトにネットショップを始動
平成24年 ネットショップ2号店「米蔵やごう」をスタート
平成25年 町村精米工場が「HACCP認証」取得