会報「商工とやま」平成26年1月号

特集1 
「富山まちあるきICTコンシェルジュ事業」で まちに人を呼び込む
 富山市と共同提案団体が情報インフラ整備とアプリ開発に取り組む
(総務省「ICT街づくり推進事業」採択事業)


 富山市中心街の活性化に向けて、富山市と共同提案団体が進める「富山まちあるきICTコンシェルジュ事業」。スマートフォンやデジタルサイネージによる情報提供で中心市街地に人を呼び込みながら、今後の賑わい創出に活用するための情報収集も同時に行う取り組みです。  今回の事業に携わる(株)インテック環境未来都市事業推進室室長の大間知一彦さん、(株)ケーブルテレビ富山専務取締役の春田清さん、富山県立大学工学部情報システム工学科講師の岩本健嗣さん、富山市都市整備部交通政策課課長の黒瀬裕治さんにお話を伺いました。

まちの情報発信と情報収集・分析を


 富山市が目指す、公共交通を軸としたコンパクトシティへの取り組みの1つとして、本年6月の総務省の「ICT(情報通信技術)街づくり推進事業」に採択されたのが、富山市と共同提案団体が提案した「富山まちあるきICTコンシェルジュ事業」です。これは、富山市が環境未来都市事業の中で取り組む「交通空間の利活用交流推進」事業の一環として提案し採択されたもので、富山市、(株)インテック、(株)まちづくりとやま、富山地方鉄道(株)、(株)ケーブルテレビ富山、(株)PCO、日本エレクトロニクスサービス(株)、富山大学、富山県立大学が参加しています。

 富山市では現在、コンパクトシティの実現のための3つの柱として、@公共交通の活性化、A公共交通沿線地区への居住促進、B中心市街地の活性化に取り組んでおり、これまで「歩いて暮らせるまちづくり」という目標を掲げ、セントラムやライトレール、コミュニティバス、そして、パークアンドライド駐車場など公共交通の整備が進められてきました。

 今回のICTコンシェルジュ事業は、これらの政策をICTで支援する取り組みです。

 プロジェクトリーダーである株式会社インテックの大間知一彦さんに、事業の概要を伺いました。

 「今回の事業では、これまで富山市が進めてきた事業に加えて、『情報配信・収集のためのICTインフラ整備』、『まちあるきのための情報配信』、そして『歩行者動態情報の収集と分析』を行うことによって、まちづくりを活性化していきます。

 『情報配信・収集のためのICTインフラ整備』はキャリアを問わずWi−Fiが使えるような通信インフラや、公共交通の位置情報を把握するためのGPS端末、歩行者動態情報を収集するネットワークカメラなどの整備を行います。また、『まちあるきのための情報配信』は、駅・交通機関・まちなかに設置したデジタルサイネージ(電子看板)やまちを歩く方々のスマホへの情報配信を行います。そして3つ目の『歩行者動態情報の収集と分析』は、初めの2つの取り組みを通して集めた歩行者動態情報と交通ICカードの乗車データを合わせて分析を行います。そして、これらの取り組みによって、公共交通の利便性を向上させ、中心市街地の賑わいを活性化を目指します。」


スマホアプリ「とみコン・プラス」


 今回の事業のなかでは、まちなかの情報を発信し、同時に許諾を得た利用者の情報を収集・分析するスマートフォンアプリ「とみコン・プラス」を開発。アプリ開発を担当する富山県立大学の岩本健嗣さんは、次のように語ります。

 「アプリの位置づけは、どうすれば中心市街地に来てもらえるかという観点を大事にしています。イベント情報、スポット情報(グルメなどの様々なジャンルのお店、お出かけ情報)、とみコン・ピックアップ(アプリでしか読めない特選情報)、クーポンの発行など、ちょっとユニークなコンテンツや店舗の紹介を通して、まちなかに来ると何か面白いイベントがあるといった情報をどんどん発信して、多くの方に来ていただこうと考えています」


アプリやカメラ、交通ICカードで、歩行者動態情報を収集・分析


 情報発信と同時にスマートフォンで集めるGPSや年齢、性別などの属性情報、そして、中心市街地の街頭に設置したネットワークカメラでも通行人の属性情報を収集し分析することで、まちなかではどんな人が、どこで、どのように動いているかを知ることができるようになります。

 さらに、交通ICカードの乗降車データも許諾を得た人のものは情報収集されますから、人がどこから来ているかなどの情報も分析に活用される予定です。


プライバシー保護について


 情報収集と分析にあたってセキュリティやプライバシーが気になるところですが、アプリや交通ICカードに関しては、必ず利用者の許諾を得た上で実施され、ネットワークカメラの映像データはすべて破棄されます。蓄積される情報は、属性として何歳位かということと性別、撮影場所のみ。プライバシーに関わる情報は蓄積されません。岩本さんは次のように説明します。

 「いわゆる個人情報と言われる名前や住所などは取得せず、あくまでスマートフォンの端末が1ユニークであるという設定で、誰の端末かといったことは分かりません。ネットワークカメラでも性別と見た目の年齢だけが収集されます。少しでも多くの方にご理解いただき、今後のまちづくりのための有効なデータを収集できればと考えています」


産学官が連携して全国モデルへ


 デジタルサイネージは、まちあるきのための情報配信プラットフォームとして、駅、交通機関、まちなかに設置し、情報を一元管理して情報発信されます。すでに、電鉄富山駅、セントラムなどには設置済みで、今後すべての路面電車への設置が検討されています。

 また、まち歩きアプリでも同じように情報は一元的に管理されます。アプリで提供する情報としては、観光おみやげ情報、グルメ・イベント、交通ロケーション・ニュース、天気・防災情報なども予定されています。

 「駅と交通機関、そして、まちなかでコンテンツを提供するデジタルサイネージとスマートフォンを連動して実施するところが事業の特徴です。首都圏などでも同じようなサイネージやスマホアプリの取り組みはありますが、単発のものが多く、このように産学官が連携したものは、地方でもこれまでありませんでした。富山市での取り組みは全国のモデルになるものだと考えています」と大間知さんは強調します。


タイムリーなマイクロ広告や、見る人の属性に応じた広告配信を


 また、店舗を営む方が広告を出しやすい仕組みづくりとして、地域の商店の広告を簡単な操作で配信するマイクロ広告がつくられます。マイクロ広告とは、ターゲットや媒体が大きなマス広告に対して、一つの店舗でも簡単に広告を出せるもの。スマートフォンで写真やコメントをアップロードしたり情報発信が簡単にできます。

 そのほかAR(拡張現実)によるエンターテイメント提供として、従来は紙で行うスタンプラリーを仮想現実の技術を使い実施します。ある場所に行って、スマートフォンである画像を撮るとスタンプが押される仕組みです。

 また、スマホのアプリやネットワークカメラで取得した年齢や性別などの属性情報から、その場所に応じて、その人に合った広告を配信したり、サイネージのコンテンツを変えていくことが可能となります。


富山市のビッグデータを集める


 スマホアプリのGPS情報、ネットワークカメラ、交通ICカード、そして、Wi−Fi利用履歴などを組み合わせた情報収集と分析が計画されていますが、これには富山市のビッグデータを集めるという目的があります。

 「情報が集まることで、今までは気づいていなかったような人の流れや、情報の届き方が抽出できると良いなと考えています。それらの情報を解析した結果は、効果的な情報発信に活かすことができ、また、それを見た人がまちなかに来ることで情報が集められます。この円をうまく回していきたいなと考えています。そのためにも、まずは、アプリのダウンロード数が重要ですね」と、岩本さんは、皆さんの理解と協力を呼びかけています。

 交通ICカードのデータとスマホアプリの情報を結びつけることによって、どこに住んでいる人が交通機関に乗ってまちなかのどこへ来るかがわかるようになります。全体の登録者数は目標としては1万人とのことですが、12月からはiPhone版も登場予定です。今後、様々な広報活動を通じて当事業への協力者を増やしていきたいとのことです。


安心・安全なフリーWi−Fiを設置


 フリーWi−Fiの設置を担当するのはケーブルテレビ富山です。現在約75カ所の予定で計画されていますが、同社専務取締役の春田清さんは、市民、企業の協力で、さらに増やしていきたいと語ります。

 「平常時にはもちろん、災害時にも誰でも使えるものにしたいということで、富山駅、中心市街地、グランドプラザ、路面電車の電停、岩瀬地区にもアクセスポイントを設置予定です。設置はいずれも屋外で現在は75カ所を予定していますが、市民のみなさんのご支援を得て、毎年増やしていき、例えば災害時の避難場所になるところになどにも設置していきたいと考えています。

 また、安心・安全なフリーWi−Fiとするために、使う方は認証が必要です。無線通信の内容が外部に知られることがないように、セキュリティのために情報は暗号化されます。お子さんが見るとよくないサイトにはアクセスできないようなフィルタリングも行っていきます。現在も、シティWi−Fiは全国にあるのですが、認証や暗号化、フィルタリング機能が十分ではないものがほとんどです。我々がやっているものも完全ではないですが、信頼性の高いサービスをご提供できますし、さらに使い勝手の改善も検討していきます。

 また、当社のデータ放送のコンテンツの中から気象や防災関係の情報も、サイネージで表示したり、スマートフォンで見られるような仕組みも計画しています。

 1年半後の北陸新幹線開業や、オリンピックの東京開催を控える今、早い段階から国内外の旅行者向けに、富山はまち歩きしやすい、こんな良い都市ですよというPRをしていきたいですね」と、春田さんは話します。


まちを1つの複合商業施設と考えみんなで盛り上げたい


 岩本さんは、今回取り組む地域について、1つの複合商業施設のようなイメージを持っていると語ります。

 「都心型の複合施設には住居、オフィス、飲食店や洋服店もあり、そこでは普通、一元化されたイベント情報などが発信され、顧客用の会員カードが発行されて情報のやり取りが行われています。そこで働いている人、住んでいる人、皆が様々なサービスや情報を共有している。実はそれがコンパクトシティの本質ではないでしょうか。

 コンパクトシティを1つの複合商業施設と考えたときに今回の「サイネージやアプリ、Wi−Fiを使った事業は、住んでいる人、働いている人、外から遊びに来た人のためのものとなります。そこでの情報は一元管理されて、商業施設をさらに良くするために活用されるわけです。

 新しい試みですが、皆が1つのビルで生活や商店を営んでいるという意識を共有すると、コンパクトシティ自体がうまくいくのではないか。相互の情報のやりとりのなかで、何か新しいものが生まれるはずです。やはり、全体が盛り上がってこそだと思うのです」

 まちに関わる多くの人に事業を理解してもらい、皆で協力しながら盛り上げていきたいと話す岩本さん。大間知さんも次のように付け加えます。

 「百貨店の中でも、導線という考え方で店づくりがされていますよね。地下に食品売り場が集まり、そこからどう上階に人を上げるかが考えられている。

 まちも同じで、駅や電停からどう人を回していくのか。ここまでは来ているけど、ここから先は来ていないなど。そういった情報をつかむことによって、人を集められるようになれればと思います」

 富山市都市整備部交通政策課課長の黒瀬裕治さんも、今回の事業による活性化への期待を語ります。

 「いま言われたように、1つの商業施設であれば、それを有機的につなぐのはエレベーターなどになると思いますが、それを大きな平地にすると、セントラムがそのエレベーターの替わりになっていると捉えることができます。広いエリアにおいて高頻度の運行で使いやすく、やさしい乗り物であるLRTが、このまちにとっては非常に有効なものとなっています。

 産学官の協同によるこういった事業から、ぜひ新たなムーブメントを構築していきたいですね。新幹線の開業と同時に、高架下には新しく市電の電停ができ、駅のなかで乗り下りすることができます。利便性も環境もよくなるなかで、ICTによる情報を有効に活用し、まちに賑わいを運べたらと考えています」


 公共交通を軸とした、まちづくりのための情報収集と活用によって、中心市街地が活性化され、交通機関の利便性が高まるなどのフィードバックが期待できるという今回の試み。みなさんもアプリをダウンロードして、市内のまちあるきを楽しみながら、賑わいのある便利なまちづくりに参加してみませんか。


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