「商工とやま」H16年10月号

特集 デジタルが生活をもっと楽しく
     富山で地上デジタルテレビ放送がスタート!


 10月1日、地上デジタルテレビ放送が、この富山でスタートします。放送を開始するのは北日本放送(以下KNB)とNHK富山放送局(以下NHK)。KNBの地上デジタル化はローカル民放で初めて、NHKも地方局で最も早いスタートとなります。地上デジタルといえばハイビジョン画面によるテレビの美しい映像やクリアな音声、文字放送といった特徴が話題になっていますが、視聴者にとってはまだよく理解できない部分もあるのでは…?

 今回の特集は、間もなく始まる本放送を前に、地上デジタル放送の魅力やメリット、「どうしたら観ることができるのか?」といった素朴な疑問に対する回答も含めてレポートしました。


◆放送のデジタル化は世界の潮流

○テレビ放送業界の大改革

 現在、地上放送はアナログ放送(※1)で行われています。この一方で、電波を効率よく使用でき、高画質・高音質・多チャンネルといった様々な特性をもつ放送方式のデジタル化が世界中で急速に進んでおり、アメリカやイギリスなど14カ国で開始されるなど、世界の潮流となっています。

 そこで日本でも現在、総務省が「e-JAPAN重点計画(平成17年までに世界最先端のIT国家となることを目指した基本構想)」を立ち上げ、国の政策として地上放送のデジタル化を推進しています。テレビ放送がスタートして50年あまり。情報・娯楽のメディアとして最も大きな存在となったテレビが今、大改革の時期を迎えているのです。


○電波の有効利用にも貢献

 デジタル放送の技術には、映像や音声の情報を信号化して一挙に送ることができるという特性があり、高度な放送サービスが可能になります。

 またデジタル化によって、放送で使用する電波帯域を整理し、空いた帯域を次世代の通信事業に割り当てることができるようになります。国の計画ではアナログ放送終了後、現在使用しているテレビチャンネルの約3分の1を、テレビ放送以外の用途に活用することになっています。これは限りある電波資源の節約にもつながります。


○平成23年までに全面切り替え

 地上デジタル放送は既に東京・大阪・名古屋の三大都市圏で平成15年12月から始まっています。その他の地方都市では今年10月から始まる富山、茨城を皮切りに順次スタートし、平成18年には全国で導入される予定になっています。

 現行の地上アナログ放送は7年後の平成23年7月には終了する予定で、それまではアナログ放送とデジタル放送が並行して放送されます。従って、アナログ放送が終了すると、現在ご家庭で使用されている受信機では見られなくなるのでデジタルテレビ用のチューナーを取り付けるか、地上デジタル対応のテレビに買い換える必要があります。


◆高画質・ワイド画面のハイビジョン放送

○人の視野にあったワイドビュー

 地上デジタル放送は、ハイビジョンによる高画質な映像が受信できます。ハイビジョン放送は画質の精細さを示す総走査線の数が1125本。これはアナログ放送の標準画質525本の2倍以上で、画面の美しさが格段に向上します。

 また、地上デジタル放送画面の横縦比は16:9で、アナログ放送の4:3に比べて30%以上ワイドになります。これは人の視野に合った見やすいサイズ。例えばスポーツ番組の場合、サッカーのフォーメーションや、野球のボールの動きがよくわかり、臨場感たっぷりの映像が楽しめます。もちろん映画やドラマ、ドキュメンタリー番組でも今までにない感動が得られます。


○高音質が実現

 地上デジタル放送は、音質もCDレベルに向上します。「5・1サラウンド」の高音質放送では、合計6つのスピーカーを使用することでダイナミックな音質が実現。音に包み込まれるようなホームシアターが現実のものとなります。

 また2ヶ国語放送の場合、アナログ放送ではそれぞれモノラル音声ですが、デジタル放送ではステレオ音声で楽しむことができます。


○マルチチャンネルで野球中継延長にも悩まない

 デジタル放送では1チャンネルで2〜3番組を同時放送することができます。視聴者は、好きな番組を選んで見る事が可能です。

 例えばプロ野球中継が伸びた場合、一方で放送予定のドラマを時間通りに放送し、もう一方でプロ野球中継をそのまま流します。これによってドラマ開始が繰り下がったり、プロ野球中継が途中打ち切りになるといった不満が解消されます。

 このほかには建物の原因で画面が二重映りになるゴースト障害、外国電波の混信などの電波障害がなくなるというメリットもあります。


◆データ放送による新しいサービスがスタート

○知りたい情報をいつでも入手

 もう一つ、特筆すべき地上デジタル放送のメリットに、データ放送があります。例えばスポーツ放送なら選手のデータ、料理番組ではレシピなど、知りたい情報を得ることができます。さらに電子番組表(EPG)の機能もあります。

 地域に密着した情報提供も増えます。例えばメインの画面でドラマを見ながら、地域ニュースや気象情報、生活情報などをデータ放送でキャッチすることも可能。ほしい情報をほしい時に入手できるようになります。

 また、画面を見ながら番組を選んだり、録画予約したりすることもできるようになります。


◆現行の受信機でも見れます

○家のテレビにはチューナーを設置

 地上デジタル放送を見るには、いくつかの方法があります。まずは、地上デジタル放送対応のハイビジョンテレビを購入する方法。最近、販売されている大型の液晶テレビやプラズマテレビなどはこうした地上デジタル放送用のチューナーが内蔵されているので、そのままで現行のアナログ放送と地上デジタル放送の両方を見ることができます。

 今、使っているテレビで見る場合は、地上デジタルチューナーとUHFアンテナを設置すれば見ることができます。ただしこの場合、ハイビジョンテレビならデジタル放送特有のハイビジョン画質が楽しめますが、標準のテレビやワイドテレビではハイビジョン画質にはなりません。

 また、B-CASカード(※2)をチューナーに挿入しなければデジタル放送を正しく見る事ができません。


◆テレビを超えた総合情報端末へ

○番組に参加できる双方向機能

 双方向機能とは、受信機に接続した電話回線などを通じてクイズ番組の解答者として参加したり、音楽番組にリクエストしたりすることができる機能です。NHKのBSデジタル放送ではすでに「デジタル紅白歌合戦」などで視聴者参加型の放送を実施していますが、地上デジタル放送でも今後、こうした参加型番組が増えていきます。

 また地上デジタル放送では、インターネットとの接続が可能になるため、より身近でスピーディな双方向番組が楽しめるようになります。


○携帯電話やパソコンでも受信できる時代へ

 地上デジタル放送の良さは移動しながらでも安定した映像が受信できること。このメリットを生かし、近い将来、携帯電話やテレビ付カーナビ、さらには今後、登場してくる様々な移動体受信機でテレビ放送が楽しめるようになります。こうした移動体受信が普及すれば、家の外でテレビを楽しむことはもちろん、台風や地震などの災害時、貴重な情報ツールとして活用できそうです。


◆10月1日から富山でスタート

○地形的に恵まれた富山

 平成18年のスタートを予定している他の地方都市に先駆けて、富山ではこの10月、KNBとNHKの2局が同時に地上デジタル放送をスタートさせます。この背景には「大都市との情報格差を少しでもなくしたい」という両局の放送業務に対する積極的なスタンスがありました。

 また、富山は地形的にも恵まれていました。周囲を山に囲まれ、なだらかな平野が広がる富山県は電波障害が少ないのが特徴。呉羽山に設置したアンテナから発信される電波の世帯カバー率は95%と極めて高く、中継局も18ヵ所(石川県は50〜60ヵ所、北海道は100ヵ所以上)で済みます。さらにはケーブルテレビの普及率が99%と全国で一番高く、デジタル放送に移行するためのインフラが整っていたことがあげられます。


○良いサービスを誰よりも早く! 先取の気性に富んだKNB

 全国の民放で最も早いデジタル化を実現したKNBは、4年ほど前から放送機材、中継車、スタジオなどの設備投資を行い、計画的に準備を進めてきました。

 「当社はこれまで民放として13番目にラジオ局を立ち上げ、それ以降も他社に先駆けて音声多重放送や字幕放送を導入し、昔から“技術のKNB”として新しい技術を先取りしてきました。今回の地上デジタル化も“良いサービスをできるだけ早く”の方針からですが、当社はそういうDNAが社内にあるのでしょうね」と、KNBの石丸康夫メディア開発部長。


○より地域に密着したデータ情報を発信

 NHK富山放送局では、画面と連動した地域ニュースなどのデータ放送ほかに、「自然といのち」をテーマに、独立したデータ放送も行っていく予定です。

 具体的には立山の風景や植物を紹介するコンテンツ、地元の祭りやイベントを紹介するコンテンツ、夜間の救急診療機関や健康増進のための体操や食品の情報を紹介するコンテンツなどを制作。大島町絵本館と提携した絵本紹介コンテンツなども予定しています。

 「データ放送は何度も繰り返して見ることができます。例えば体操を覚えたい時に繰り返して見る、面白かった絵本をもう一度見直すというふうに。新しいテレビの楽しみ方を提供できるデータ放送を作っていきたいと考えています」と、NHK富山放送局の服部善行副局長。

 KNBでも社内に「デジタルコンテンツプロジェクト」を立ち上げ、現在、地域情報の提供のほかに、デジタルの良さをアピールできる番組制作を検討しているそうです。


○試行錯誤しながらより良いサービスを提供

 「この数年間は試行錯誤の段階ですが、テレビは放送だけでなく、様々なアプリケーションを可能にする総合情報端末として発展していくでしょう。デジタル化はその足掛かり。放送局としては今後もいろんなサービスを模索していきたいと思っています。視聴者の皆さんには少しでも多くの方に、その良さを感じ取っていただきたいと思います」(NHK服部さん)。


○未来のデジタルライフに期待

 デジタルテレビで選挙の投票を行ったり、一つの画面で色々な番組を同時に見たり、テレビ画面でメールチェックしたり、スポーツ番組の途中で気になった選手の情報をインターネットで検索したり、デジタルテレビは無限の可能性を秘めています。

 まだまだ高額な地上デジタル放送対応のハイビジョンテレビですが、県内ではこれまでに12,000台が売れているそうです。これは他県よりも早い普及率。全国に先駆けて富山で始まる地上デジタル放送への期待感がうかがえます。放送が始まるこの秋からは、視聴者の関心がさらに高まっていくと同時に、ハイビジョンテレビの低価格化も進んでいくことでしょう。なによりデジタルテレビ放送がもたらす近未来の楽しい生活に期待したいと思います。


デジタルうんちく

※1 アナログ放送
 映像をアナログの電気信号に変換し伝送する放送方式。電波の周波数帯を広く使う。他の電波の影響を受けやすい。

※2 B-CASカード
 2004(平成16)年4月5日から地上デジタル・BSデジタル放送では、番組の不正コピーやインターネットへの不正な配信を防ぐため、番組に暗号をかけて放送しています。
 B-CASカードは、この暗号を解く鍵でカードをデジタルチューナーに挿入しなければデジタル放送を見る事ができません。


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